婚活の狂気が冷めた朝⑦
「あと、肩周りと腕下も計りますね。それが終わったら、こっちで何着かお勧めのモノを見つけて参ります」
ようやく、採寸が終わった。おっさんの所へ戻ると、まだスマホを見ている。田井島が声をかけると、ようやく気付いた。
その後、ラインの話となり、そのままお互いのQRコードを読み取ってライン登録した。ラインは本当に便利である。最近の中高生がはまるのも納得だ。
田井島が高校の頃、ちょうど携帯電話が普及し出したが、あの頃は白黒画面の二つ折り携帯…いわゆるパカパカ携帯が主流だった。まさに隔絶の感がある。
「さて、この三着の中から選んで頂きたいのですが、いかがなされますか?」
すぐに店長が候補のカジュアルジャケットを持って、待ち合い客用のソファーまでやって来た。仕事が速いな…。
「愛宕さん、一番のお勧めはどれですか?」
「これですかね。田井島様はやや小柄ですので、縦のストライプが張っていると、見た目がより背が高くスラッと見えます。そして、これは値段も四千円と大変リーズナブルですよ」
「愛宕さんがそう言うなら、間違いないだろう。では、これをください」
「かしこまりました」
「ちょっと、田吉さん。私に選ばせて下さいよ!」
なぜ、田井島が着る服なのに、田吉が勝手に決めているのか? それに納得いかずに、田井島は待ったをかける。
「何、言っているんだよ。ファッションに疎い奴が選んだ所でたががしれているだろう。せっかく、お金出すのに、変なの買ったら、それこそお金の無駄だ」
「え〜」
「それよりも、こう言うのは、プロのお勧めが一番。なあ、愛宕さん」
「お褒め頂き、恐縮でございます。では、こちらでよろしゅうございますか?」
店長の愛宕がそう言うと、田吉が頷いた。結局、黒ジャケットは田井島の意見が一切反映されること無く決まってしまった。
しかしながら、さすがはプロが選んだだけあって、体にぴったり馴染む上に、見た目もとても上品に見える。なるほど、田吉の言うことも一理ある。ますます、田吉のおっさんに一目を置くようになった矢先…。
「すまん、田井島。急に女の子と会う約束が入ってしまってな…。と、言う訳で解散だ! じゃあな!」
そう言って、田吉はあっと言う間に街中の雑踏へと消えて行った。何とも憎めない人である。




