主(あるじ)を失った家③
華が仏壇の前であれこれ考えながら時間稼ぎをしていると、二人はやれやれと思ったのか、何やら話し始めた。声をひそめているので、何を話しているのか全く分からない。
やがて、遥斗が目覚めたのか、遥斗の声が聞こえた。二人は声をひそめるのを止めて、遥斗の相手を始めた。よし、遥斗、いいタイミングで目覚めた。さすがは我が子だ。これでこの話は完全にお流れだな…。
「華さん、遥斗ちゃんが起きたことだし、夕食にしましょうか?」
義母が観念したように言った。やっぱり、教員コンビの夫婦と正面から議論しても言い負かされるだけだから、言わずに勝つ戦略がいいようだ。これは春樹が生前にやっていたことである。さすがは我が夫…。
「はい、今、そちらへ行きます」
その時だった。突然、ドアベルが鳴る。こんな時間に一体誰だろうか? 義父も義母も心当たりがないようで、互いに顔を見合わせて首を傾げていた。
「こんな時間に、一体誰だよ…」
とブツブツ言いながら、義父は玄関へと向かった。
「どちら様ですか?」
義父の声が玄関からかすかに聞こえる。まあ、怪しい宗教の勧誘か、売れないセールスマンあたりだろうか。義父はすぐに戻って来るだろうからと、義母と一緒に夕飯の準備を進めていた。
遥斗はお気に入りの赤ちゃんいすに大人しく座っている。孫を連れて、頻繁に帰って来て欲しいらしくて、義父母がお金をかけて買ったらしい。生前に春樹がそう言っていたような…。
「申し訳ありませんが、帰ってくれませんか? あなたが謝っても、息子はもう帰ってきませんから…」
「このたびはうちの愚息が、本当に申し訳ありませんでした」
「だから、玄関先でそんなことをされても困るんだよ…。帰ってくれ…」
「どうか、あなたの息子様の墓前にて、謝罪させて下さい」
「帰って下さい! お前達の顔など見たくもない! 悪かったと思うなら、二度とここへ来ないで下さい…。それでも帰らないと言うなら、警察を呼びますよ!」




