田井島、40にしても惑うことを知る④
「で、田井島、お前は?」
「私? 何もありませんよ…」
「そんなことは分かっている! 俺が聞きたいのは、どうして三十まで何もしなかった? まさか、ゲイ…」
「違いますよ、田吉さん…。臆病でヘタレだっただけです」
「ふーん、で、どんな心境の変化があった訳? まさか、私達の話だけ聞いて、何も言わないとでも?」
四十歳の男と女の離婚話を聞いておきながら、何も言わないのはさすがに気が引ける。田井島はこれまでの花上と鳥飼の関係のことを一通り説明した。
話し出したときは、そんなプラトニックはないとおっさんは首を振っていた。しかし、花上春樹の名前を出したら、柚木が思い出したように勢いよく話す。
「あっ、幼い少年が車にひかれそうになったところを、命と引き換えに少年を救った人だ。十日ぐらい前にニュースになったよね。そして、運転手は飲酒運転でそのまま逮捕されたはず…」
「ああ、思い出した! 学生時代もフィリピンでボランティア活動していて、その時に川で溺れた少年を命も省みずに救ったとか…で持ち切りだった」
やっと、田吉のおっさんも納得したようだ。まあ、花上が無くなった翌日からしばらくの間、テレビでも新聞でもかなり取りあげられたからな…。
「そうか、分かった。田井島の言うことを信じよう。それにしても、これまで仲良くやってきた三人が、こんな形で引き裂かれるとはやりきれんな…」
「私、一つ分からないことがあるんだけど…」
柚木が何か腑に落ちないのか、さっきから首を傾げてばかりいる。これまで顔をしっかり見る機会が無くて気付かなかったが、星野あきに何と無く似ているかもしれない…。道理で年齢の割には若く見える訳だ。
「マー君、言い方が悪くて申し訳ないけど、もし…その状態がずっと続いていたら、君は二人の幸せをずっと見守り続けたと言うこと?」
「まあ、そうですね。こんなことにならなければ…」
またしても、田吉と柚木の二人が顔を見合わせる。やはり、二人の価値観とは相容れない部分があるようだ。




