田井島、40にしても惑うことを知る③
おっさんは田井島にあきれて、ビールで喉をうるおす。とりあえず、田井島も田吉に合わせてビールを飲む。柚木は楽しそうにニヤニヤしているだけであった。
「これはとんでもない天然物だ…。マー君、もう、本当、面白過ぎ! ぶっ飛んでいるね。ところで、マー君は絵を描くの上手?」
「いや、絵はからっきし…ダメですね」
「それは残念…。私ね、芸大で絵を教えているの…。こう見えても准教授よ!」
「それはすごい…。でも、バツイチなんですよね?」
「……。私は、君の頭の中がどうなっているのか、描きたくて仕方がないよ…」
「結鶴も田井島と同じぐらいぶっ飛んでいることを忘れていた。もう、いい。このままじゃ、収拾がつか無くなるから、俺が一通り説明する!」
おっさんは観念したかのように説明を始めた。田井島は目をパチクリして説明を聞く。柚木は食べ物が無くなりそうなので、ピザとポテトを頼む。田吉がカルパッチョも加えるように頼む。
「こう見えても、俺は三十の時に一回結婚している。そして、子どもも一人いる。しかし、いろいろあって三五の時に離婚して、子どもは嫁が引き取っている。今は電車の運転手をしながら、子どもの養育費を払う日々だ」
「何があったんですか?」
田井島は、一番聞きたいことをためらうこと無く聞いた。酒がほどよく回って大胆になっている。田井島は多少引っ込み思案な所があるので、少しぐらい酒が入っているぐらいが物怖じせずにいてちょうどいい。
「おっと、今日初めて会った奴に、そこまで話す義理はないな…。これでも、十分過ぎるぐらい話しているぞ。あと、そこの芸大の先生は…」
「太一、私が自分で話すから…。太一に任せると余計なことしか言わんし…。私は家庭よりも自分の出世を優先したからかな…。夫が子どもが欲しいと言ったから別れた。絵を描くのに子どもは邪魔だから…」
今日はなんて日なんだ! 次から次に衝撃的な発言が飛び出す。絵を描くのに子どもは邪魔?
「それはまた…」
「もともと、子どもを作らず、二人でやっていこうと約束していたのに…。あっちが一方的に約束を破ったから、仕方ないよね…」
人の数だけ恋模様があるだろうけど、この二人の例はあまりにも特殊過ぎる。田井島には全然参考にならないように思われた。




