田井島、40にしても惑うことを知る①
田井島は田吉と柚木と三人でニッパチにて飲んでいた。結局、スマホで検索したホットペッパーのクーポンを使って、二時間食べ飲み放題に二千五百円にすることにした。
これなら、他の店で軽く飲むよりも安くつく。三人の懐事情と思惑が一致した。しかも、今は九時以降三十分サービスしてくれるらしいので、二千五百円で二時間半も飲み食べ放題である。
「まずは乾杯!」
三人は生中のグラスを重ねた後、それぞれ生ビールをのどに流し込む。ボーリング場では缶の発泡酒を紙コップに注いで飲んだし、食べ物も宅配ピザとポテト以外は乾き物ばかりだった。
これでボーリング二ゲーム代含めても、四千円は明らかなぼったくりである。今や、婚活さえも何も知識がなければ、鴨にされ、容赦無くぼったくられる始末だ。
「それにしても、天間堂の軽食さ…、マジでありえ無くない?」
「確かにあれはないよな…」
「そうですよね。普通に二ゲームしても、貸靴代込みで千七百円ですよ。残り二千三百円であれはないですね…」
「まあ、あれは天間堂の単独企画じゃないみたいよ。何かイベント会社が絡んでいたらしいから。中間マージンをがっぽり取られたのかも…」
田吉のおっさんが、事情通を気取って語る。もしかしたら、本当に事情通かもしれないけど…。
「もしかしたら、パートナーエージェントかな? あそこ、結構えぐいらしいよ。で、私達のデータを吸い上げて、自社の婚活パーティーのダイレクトメールを送りつけて、参加させるでしょう。そうやって、婚活している人を骨の髄までしゃぶる気よ…」
柚木もかなり詳しいらしい。そんなにたくさん婚活に参加しているのに、どうして田吉も柚木も未だにフリーなんだろうか?
「まあ、天間堂にも個人情報があるだろうし、次回から単独でやるかもしれないね」
「そうね。そしたら、次はもっといいモノを食べさせてくれるかもしれんな…」
「いやいや、天間堂にそれ期待してもダメだろう? それよりも値段下げてくれないかな…」
さっきから、おっさんと柚木さんの会話がコア過ぎてついていけない。二人が話している間、田井島は適当に相槌を打ちながら、たこわさびと卵焼き、鳥の唐揚げ、刺身の盛り合わせ、焼き鳥の盛り合わせを食べていた。
「こんなことを尋ねて、申し訳なんですけど…」
「何、マー君?」
マー君? 職場やプライベートに問わず、アラフォー世代はなぜか僕のことをマー君と呼ぶ。それにしても、さっきまで田井島と呼んでいたのが、急にマー君になったのでびっくりした。
「私、こう言うのに出るのが初めてでして…。何かコツとかあったら、教えてもらえませんか?」




