花上を偲ぶ会⑥
どうやら、何一つ不自由無く育てられた幸せ者の鳥飼には、嘘か幻の作り話にしか感じられないようだ。それとも、そのような世界の存在を受け入れられないのか?
「さらに、それから四年後の十四歳に、異父弟が生まれてから、それがさらに加速していったよ。それに絶望して、俺は十五の時に全寮制の高校への進学を決めてから家を飛び出した…。そんなことを繰り返すのは…ごめんだね!」
「どうして、そんな風に考えるの?」
どうして、そんな風に考えるの…だって? よくそんな質問ができるなとあきれてしまう。再婚すれば、再びに幸せになれると思い込んでいる鳥飼は、本当におめでたい奴だ。もはや、何をいっても無駄だろう。しかし、それでも分かってもらわ無くては、新しい道を切り開く際の支障にもなりかねない。
「それは鳥飼が、かつてグーパンチをしてでも花上を守ろうとしたのに…。その花上が、命を顧みずに、再び少年を助けるために車に飛び込んだのと同じだ」
鳥飼は何度も力無く首を振る。それは彼女としては受け入れ難い事実だろう。守りたいモノが守れないことほど悲しいことはない。
「いくら、幸せのためにあれこれ手をつくしても、花上はかわらなかったじゃないか? それと同じなんだ」
「それは、違うよ…」
鳥飼が力無くつぶやいたが、田井島はそれを無視して続ける。
「またしても、目先の幸せのために大きなリスクを見ぬ振りをしても、リスクは必ずやってくる。だったら、同じような目に遭わないために、リスクを避けるしかない。これが花上の死から出した俺の答えだ!」
「田井島はいつも合理的で冷静だ。まるで感情のないロボットみたい…」
好きで感情のないロボットになった訳ではない。子ども時代に心ない両親のせいで感情を奪われたのだから仕方ない。残されたのは頭でっかちな理屈だけだ。
「そりゃ、理屈だけで考えたら、そうだろうけどさ…。多くの人々はやっぱり理性よりも感情で動くよ。例え、理性で動けば、遠い未来ですごく幸せになれると分かっていても、結局人は目先の感情を満たすためにしか動けない…」
目先の感情を満たすために、未来に大きな不幸を量産する世界なんて、真っ平ごめんである。しかし、大人の欲望を満たすために、これから生まれて来る子どもに大きな不幸を残すのは、何も今に始まったことではないから仕方ないか…。田井島は鳥飼の話をただ黙って聞き続ける。
「その結果、何か大きな物を失うと分かっていても、人はやっぱり感情で動いてしまう。だから、大多数の人々は幸せをつかめないまま、この世を去って行くんだろうね…」
時計を見ると、まだ残り一時間もあった。しかし、もうお互いの結論は出たし、このまま平行線をたどることも分かっていた。
あとの一時間はたわいのない世間話を時々しながら、二人とも黙々と料理を食べて、飲み物を飲むことしかできない。どちらかが譲らない限り、田井島と鳥飼の決別は決定的であった。




