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30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第6章 花上を偲ぶ会
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花上を偲ぶ会③

 ボタンを押すとすぐに小柄の女性店員がやって来て、お通しの枝豆を持って来た。田井島は生中とウーロン茶を頼んだ。すると、


「食べ物をまだ頼まれていないようですけど…」


と申し訳なさそうに言う。さっきのバイト店員と違って、社会人としての生活感があふれていた。とりあえず、たこわさびと刺身の盛り合わせと焼き鳥の盛り合わせを頼む。


 花上がいれば、次から次に食べたい物を頼んでくれていたのに…。しきり屋がいないだけで、こんなにチグハグだ。奴がいれば、それこそいいタイミングで「次は何飲む?」と聞いては、せっせと注文してくれていたな…。


「花上も同じことを言ってたよ。フィリピンで飲むサン・ミゲルはマジでうめえ…ってね」


「田井島は?」


「俺もそう思う。また、いつか行きたいな…フィリピン。大学を卒業してから仕事が忙しくて、一回も行けてない…」


「私達は三年前に新婚旅行で行ったよ」


「ああ、そうだったな。あの時は二人からしこたま土産話をしてもらったな…」


 こんな思い出話をするために、ここへ来た訳ではないのに…。でも、仕方ないか。まだ、始まってから十分しか経ってないし…。と、田井島は思った。ここでようやく頼んだ料理がやって来て、二人は思い思いに刺身と焼き鳥などをつまむ。


「やっぱり、生中にたこわさは最高の組み合わせだな」


「それにしても、本当に好きだよね? あきないの?」


「あきるもんか。まあ、わさびが苦手なお子ちゃまには、このうまみは分かるまい」


 田井島がそうやって鳥飼をからかう。鳥飼はわざとほっぺたを膨らませる。もう三十になると言うのに、まだそんなことをやるかね…。まあ、そのしぐさがかわいいといつも花上が言っていたからな。


 花上が膨らませたほっぺたを人差し指で突っつくと、鳥飼は元にもどしていた。しかし、今はほっぺたを突っつく人もいないので、勝手に元通りになっている。さすがに人妻のほっぺたを突っつくのは気が引けるのでよかった。


「嫌な奴。じゃあ、刺身と焼き鳥は、私が一人で食べるから」


「どうぞ。食べ放題だから、足りなかったら、また頼めばいいんだし…」


「くそっ、春樹がいないと、どうも調子が狂うな…」


「確かにそうだね」


「ちょっと、私、お手洗いに行って来る…」


 そう言って、鳥飼はトイレへと行ってしまった。始まってからまだ十五分ほどしか経っていないのに…。気丈そうに振る舞っているけど、まだ花上が亡くなってから一週間ほどしか経っていないからな…。


 田井島はそう考えながら、刺身と焼き鳥を食べる。もうそろそろ無くなりそうなので、明太子オムレツとシーザーサラダ、鳥のからあげ、それから生中のおかわりも頼む。


 鳥飼はなかなか帰って来ない。しばらく、田井島はひたすら食べては飲んでいた。ああ、花上がいたら、一人でさびしく待たされることもないのに…。

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