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30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第6章 花上を偲ぶ会
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花上を偲ぶ会②

「かしこまりました」


 今度はバイト店員がきょとんとする。そりゃ、そうだろう。学生御用達の居酒屋で偲ぶ会なんてする奴はめったにいないだろう。むしろ、よくすんなりと理解してくれたものであろう。


「ちょっと、そこまで言わなくてもよかったんじゃないの?」


「いや、きちんと説明した方が分かってもらえるし、後々変な誤解を招かない」


「田井島は変わらないね…。普段はぐうたらしているくせに、要所要所で動いて、楽をするところとか…」


「鳥飼も変わらないだろう。まあ、人はそんなに簡単には変わらないさ…」


「ビンビールをお持ちしました」


 バイト店員が早速持って来たビンビールを、鳥飼が真っ先に花上のグラスに注ぐ。それから田井島のグラスにビールを注ぐ。


 鳥飼は何も意識せずに行動しているが、この何気ない動きの中にこそ、鳥飼の嘘偽りのない本当の思いがある。花上のいない世界では、もはや無意味だと言うのに…。


「何、ぼんやりしているの? 一杯目から私に手酌させるつもり?」


「ああ、すまん、すまん」


「もう、授乳はおわったけど、念のため、ビールは一口だけでお願いね」


 田井島はあわてて、鳥飼からビンビールを受け取り、鳥飼のグラスに一口分だけビールを注ぐ。三人のグラスが満たされたところで、鳥飼が「乾杯」と寂しそうにつぶやく。二人はテーブルに置かれたままの花上のグラスにそれぞれのグラスを合わせる。


 どこか寂しげにグラスがぶつかる音が響く。持つべき人のいないグラスはこんなにも不安定だと知らなかった。田井島は空きっ腹へ一気にビールを流し込む。それからビンに残ったビールを全て、自分のグラスに注ぎ、また一気に飲み干す。こうして、三人だけの葬式は進む。


「春樹の分も飲んだら?」


「ああ、そうだな」


 鳥飼に勧められるままに、花上のグラスに注がれたビールも一気に飲み干した。改めて、花上がい無くなったことを実感させられる。花上、お前がい無くなって、寂しいよ…。


「せっかく、店に来ているんだし、やっぱり、ビールは生に限るよね。ああ、早く酒が飲めるようになりたいな…」


「そうだな。でも、フィリピンではいつもビンビールを飲んでいたじゃないか?」


「フィリピンで飲むビンビールはあっさりとしていて、飲みやすかったからね。水みたいにサラサラしていて、年中暑くて濃い青空によく馴染んでいたな…」


「ところで、ボタン押した?」


「押してないよ。田井島、押しておいて…」

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