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30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第6章 花上を偲ぶ会
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花上を偲ぶ会①

 親友・花上春樹の突然の死から迎える最初の週末の九月十四日。花上が亡くなったのが九月八日の日曜日で、月曜の夜に通夜、火曜の夕方に葬儀が執り行われた。


 田井島正行は仕事の都合で通夜のみしか参加できなかった。あまりにも急なことで多くの人々が通夜に参加して義理を果たしたようだ。


 今、田井島は市役所の市民課で住民票や戸籍抄本などの作成や受け渡しの仕事を担当している。年度末になれば、市外からの転入や市外への転出などでとても忙しい。


 しかし、それ以外の時期は仕事も割と落ち着いている。時々、住民票などの個人情報の固まりを本人以外の手に渡そうとして問題になったこともある。仕事は単調でも、扱う情報の取り扱いには細心の注意が求められる。


 これまで週末になれば、ほぼ必ず遊びに行っていた花上夫婦のマンション。鳥飼の作るご飯はいつもおいしかったし、花上と飲むのは楽しかった。子どもができる前は鳥飼も一緒に飲んでいたが、その後は遥斗のために酒をずっと控えている。


 歳を取るにつれて、社会人としての責任やら義務やらが増していく。当然、僕らに求められる役割や仕事もどんどん変わっていく。そんな中であっても、僕ら三人の関係は学生時代の延長線上にあった。


 これだけは何があっても変わらないと思っていたのに、花上春樹の死で驚くほどあっさり崩れた。十年前にどんな思いでこの世界を築き上げたと思っているんだ。花上の奴め…。


 花上は何も知らずに逝った。三人の中では一番幸な奴だったかもしれない。微妙なバランスが崩れた後、二人がどうなるのか考えずにあの世へ行けたんだから…。


 この週末、鳥飼は息子を親に預けて、学生時代よく飲みに行った居酒屋・安兵衛へとやって来た。この店は学生時代に花上と鳥飼と田井島の三人でよく飲みに来ていた店だ。卒業してからはたまにしか来無くなったし、花上達が結婚してからは全く行か無くなった。ところが、今回は鳥飼が花上を偲ぶために、


「安兵衛で飲もう!」


と言うのでここで会うことにした。ここは名前の通り、とにかく安い。三千円で飲み食べ放題のコースがある。しかも、大学通りにあるので、学生にも人気のあるお店だ。そのため、大学を卒業してからしばらく時間も経つと、どうしても通いにくくなるお店と言える。


「生中二つとウーロン茶をください」


「本日はお二人様のご予約で承っておりますが、一人追加と言うことでよろしいですか?」


「いえ、二人ですが…」


「申し訳ございませんが、三千円コースで注文される場合、飲み物のおかわりはグラス交換となっております」


 鳥飼が花上の分も含めて、生中を頼んだところ、男子学生とおぼしきバイト店員がマニュアル通りの対応をする。鳥飼の顔が曇る。こんな時、花上がいてくれたら、さっと動いてくれるんだがな…。まあ、もういない人に期待しても仕方ない。


「申し訳ないけど、最初の一杯はビンビール一本とコップ三個に変えてもらえるかな?」


「ビンビールですと、別料金になりますがよろしいでしょうか?」


「かまいません。ちょっとね、今日は亡くなった人を偲ぶ会をしているから、一杯目は泣き友と三人で乾杯したいんだよ」

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