葬儀から一晩明けて...⑤
それは、さっき父と話しているのを聞いていたから知っている。華が知りたいのはその先である。学校の先生って、何でわざわざ一から一つずつ順序よく話すのか? 私はあんたの生徒か…。こりゃ、職業病だな。
『で、問題なのは、華さんが実家で遥斗を育てることだ』
「申し訳ありませんが、ちょっと、おっしゃっておられることの意味がよく分からないのですが…」
まさか、花上家に遥斗を連れてこい…とでも言うのか? 遥斗は花上春樹と華の子どもであって、花上家の子どもではない。
『あのね…確かに、春樹は突然の事故で亡くなった』
「はい…」
『別に華さんと春樹の関係が冷えきった訳でもないし、二人が離婚した訳でもない』
「はい…」
ところで、義父は一体何を言いたいんだろうか…。父が毎回義父に対して切れるのもよく分かる。今まで春樹がいてくれたので、義父の言葉を分かりやすく翻訳してくれていたのに、今はその翻訳機がいない。ああ、これからはこんなことがずっと続くと思うと、本当に先が思いやられる。
『つまり、君は春樹がいなくなってからも、ずっと春樹の妻であり続ける訳だ』
「はい…」
『よって、君は花上家の一員だろう? 春樹が亡くなったからと言って、鳥飼華に戻るわけでもない』
「そう…ですね…」
『そしたらね、遥斗も花上家の一員になる。その二人がいつまでも鳥飼家にいるのは変じゃないか?』
やっと、意味が分かった。それにしても、学校の先生の考え方は古いなあ…。いや、義父だけが古いと信じたい。こんなことを言われるんだったら、双方の実家の中間地点辺りの安アパートでも借りて、形だけでも独立していることにした方がマシだ。
遥斗はまだ義父母と血のつながりがあるからいいけど、華はもともと他人である。春樹がいない今、花上家で暮らすなんてありえない。私は春樹と結婚したのであって、花上家と結婚した訳ではない。華は何度もそう思った。
「ああ、確かにそうですね…。しかし、今はまだ春樹さんも亡くなったばかりで、やらなければいけないことも多いですし、まだマンションも引き上げないといけません。この話は落ち着いてから、また改めて進めていった方が、春樹さんも喜ぶと思うのですが…」
義父はようやく黙り込んだ。こんなことなら、もっと早く春樹の名前を出せばよかった…。さすがの義父も実の息子をないがしろにするようなマネはできないようだ。
『分かった。この話は一旦保留にしよう。確かに華さんの言う通りだ。まずは春樹のことが落ち着いてからだな…』
「父に変わりましょうか?」
『いや、もういいよ。道夫さんに、よろしく伝えといて下さい。では!』
「失礼致します」
あれっ、義父ってこんな人だったかな…。それが華の正直な感想である。これまで春樹に守られていたから気付かなかったけど、義父はこんな人であったようだ。それなら仕方ない。しばらくはのらりくらりとごまかせたとしても、いずれ再びもめることになるだろう。ああ、頭が痛い…。




