葬儀から一晩明けて...④
春樹と結婚する際、華は保育士の仕事をやめてしまっている。あのマンションを自力で維持することはできない。実用的な面だけで無く、経済的な面から言ってもマンションを引き上げる以外の選択肢はないだろう。
夕方、春樹の実家から電話がかかってきた。義父母はまだ現役であり、どちらも小学校の校長先生である。夫婦でそれぞれ校長をやるほどの教員一家だ。義父母はお互いに多忙な身であるのに、息子の急死により、急遽仕事を休まないといけ無くなった。
本当に春樹はいろんな人々に迷惑をかけている。しかも九月と言えば、新学期が始まったばかりではないか…。春樹の姉・葉月も小学校で先生をやっている。
そのせいか、やたらと先生達がうじゃうじゃと通夜に来られていた。仕事の付き合いで、何のつながりのない春樹の葬儀に出席させられた先生達も大変だ…。そんなやり取りを、義父と父はしばらく続けている。
「ところで、道夫さん。春樹君が華と一緒に住んどったマンションだが、あれは早めに引き上げた方がいいんじゃないかね?」
ようやく、話がマンションのことに変わった。それにしても、歳をとると、どうしてあんなに前置きが長くなるのだろうか…。思い出すまで時間がかかるからか?
「そうか、道夫さんも同じことを考えとったか…。だったら、話が早いですな」
「まあ、華はうちの娘だから、マンションを引き払えば、うちに戻ってくることになるでしょうな…」
「えっ、そんなことを言われても…。確かに、遥斗のことは分かる。しかし、事故とは言え、春樹君はい無くなり、華は未亡人になってしまったから、仕方がないじゃないですか?」
「そんなの離婚した訳でもないのに変だ…と私に言われても困りますな…。ちょっと、華に変わるから、華と話してくれ!」
前置きが長い割には、本題を話していた時間は驚くほど短い。そして、義父が校長先生をしていることもあり、いつも父が言い負かされる。
「学校の先生って言うのは、どうも理屈っぽくていかん。こっちが一回りも年上だと言うのに…全く聞かん!」
そう言って、父が華に受話器を渡す。さて、義父は何がご不満なのだろうか…。父の話していることしか聞いていないので、何のことでもめているのかさっぱり分からない。春樹がいた時は、義父をいつもやんわりとなだめてくれていたのに…。春樹がいない今、その役は華に降りかかる。
「お電話変わりました。華です。お義父様、昨日はありがとうございました」
『華さんか…。こちらこそ、ありがとうございました。いや、春樹が突然あんなことになって、本当に申し訳ない…』
「……。ところで、さっき父とどんなことを話されていたのですか?」
『ああ、さっき、俊夫さんとマンションのことを話していたんだが、マンションを引き上げることは何も問題ない。むしろ、早急にする必要がある』
「そうですよね…。私もそう思っていました」




