葬儀から一晩明けて...②
こんなことを平気で言うから恐ろしい。わずか、三十年前は乳幼児の食事について、そんなに原始的だったのか? 冗談じゃない! これから一緒に暮らしていくなら、最新の栄養学について教えていかないといけない。春樹が生きていたら、こんなことを考え無くてもよかったのに…。
遥斗がやっと離乳食を食べ終えた。一歳過ぎてから、パクパク期に入り、準備がかなり楽になった。この日は白身魚のベビーフードと柔らかく炊いたご飯を与えた。それとフォローアップミルクを飲ませた。ここまで終わったので、母を呼ぼうとしたら、既に後ろにいたのでびっくりした。
「こう言うのは、どんどん変わっていくからね…。やっぱり、華を育てた頃とは全然違う。母さんも遥斗ちゃんのために勉強するかな…」
どんだけ、孫のご飯の世話をしたいんだよ。まあ、きちんと勉強をしてくれるなら、こちらとしても断る理由はない。むしろ、負担が軽くなって助かるぐらいだ。
「分かった。明日から、一緒に食べさせようか…」
「やった〜! お母さん、張り切るよ!」
「じゃあ、私、ご飯を食べて来るから…」
遅めの昼食を食べる。それにしても、どうしてこんな時にお腹が空くんだろう。こんなに悲しくて、苦しくて、やりきれないのに…。いっそのこと、ご飯が喉を通ら無くなればいいのに…。
そして、ガリガリにやせ細ってしまえば、春樹もあの世で少しは反省してくれるのではないか? 華はそんな自分の強欲さに嫌気がさす。だからこそ、春樹にひかれたのだ。
常に合理的かつ冷静で、どこか冷めた所のある田井島と違って、常に熱く自己犠牲など気にすること無く、人を助けたいと思う春樹。そんな春樹に華は自分を重ねてさえいた。
しかし、人助けのために命まで失ったら、元も子もない。命を失うことさえためらわない春樹を止められるのは、自分だけだと思っていたのに…。結局、止められなかった。
春樹は恋人としては、とても素敵な人だった。誕生日にはいつもサプライズをしてくれたし、とても一途に愛してくれた。しかし、結婚してからはそうはいかない。
それに彼は高校の先生として、熱心に教育指導をしていたから、朝は六時半頃には家を出るし、夜は課外指導やラグビー部顧問としての指導で帰りはどんなに早くても夜八時過ぎであった。
あいつは目の前に助けるべき人がいれば、誰であろうとも助けないと気がすまない人…。家族だからとか、友人だから…とか言って特別扱いする人ではなかった。
「遥斗ちゃん、ママ、ご飯食べ終わったみたいよ。よかったねえ。何? もうちょっと、バーバがいいかい?」




