葬儀から一晩明けて...①
花上華は遥斗の離乳食を食べさせながら、これからのことを考えていた。昨晩はすっかり取り乱してしまった。あの状況でどうやったら、最後まで取り乱さずにいられると言うのだろうか…。
やっぱり、春樹は十年前と変わっていなかった。子どもが生まれたら少しは変わると思っていたのに…。新聞の一面には花上春樹が英雄のように扱われている。一体、誰の許可を得て、このような記事を書いているのだろうか? その横には
「またしても繰り返される飲酒運転の悲劇!」
との記事が…。春樹は英雄なんかじゃない。飲酒運転の被害者だ。本来、ひかれるはずだった幼い少年の身代わりになったに過ぎない。
昨晩はそのまま、春樹のいなくなったマンションへ帰らせると危ないと言うことになり、華は実家へと連れて行かれた。まあ、遥斗と二人だと気が滅入って仕方ないので、しばらくは実家で暮らすことになるだろう。これまで三人で暮らしていたマンションは早々と引き上げ無くてはいけない。
「華、遥斗ちゃんは私が見るから、ごはんを食べたら?」
「お母さん、遥斗に離乳食を食べさせたら、すぐそっちへ行くよ」
「華、疲れているだろう? ここはお母さんに甘えて、少しはゆっくりしたらどうだ」
父も母もすでに悠々自適な年金生活に入っているので、お金にも時間にもゆとりがある。ああ、親世代がうらやましい。何で生まれた時代が一世代違うだけで、こんなにも周りの条件が異なるのか?
ああ、できることなら高度経済成長期のど真ん中を生きたかったな…。どちらも県庁職員として定年まで勤めることのできた幸せな人々。
五歳年上の姉・花菜は十年前に結婚して、今では八歳の息子と五歳の娘がいる。夫は某電力会社で勤めていて、このご時世少し逆風が吹いているものの、それでも勝ち組にとどまっている。家庭もすこぶる円満。
昨夜の葬儀には一家で来ていた。ああ、幸せでいいですね…。私にもあったはずの幸せ…。春樹は某私立高校で日本史を教えていた。あまりに突然のことに教え子達も戸惑っただろう。ああ、本当に無責任な人…。
「じゃあ、離乳食を食べさせたら、お願いしようかな…」
「そうかい。たまにはバーバが離乳食を食べさせてあげたかったのにな…」
「子どもの食べ物には、責任を持ちたいのよ」
華の親世代は食べ物に対して疎くていけない。孫がかわいくて仕方ないからと言って、せがまれるままに丸ボーロを一袋買い与えたり、りんごジュースをそのまま一本飲ませたりするからいけない。そして、離乳食が食べられ無くなる。
「そんな小さいうちから、食べ物について気にし無くていいの。二歳ぐらいまではミルクを与えていれば、栄養のバランスは取れるから、好きな物を食べさせて、食べる楽しさを教えたらいいのよ!」