表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第3章 最愛の人から一番聞きたくない言葉
10/145

最愛の人から一番聞きたくない言葉②

「私、決めたの…。花上のそばにいて、あいつが二度と無茶をしないように、守ってあげることにした…。もしかしたら、これまでみたいに、もう三人で仲良くできないかもしれないけど…。田井島なら、分かってくれるよね?」


「分かった…」


 残酷過ぎる問いかけを否定できるなら、喜んで否定する。しかし、否定したところで、何の意味がある? 鳥飼の決心を砕く言葉を、今さら見つけられるはずもない。そしたら、答えは一つしかない。


「もし、二人が付き合う事になっても、俺はこれまでと変わること無く、これまで通り、花上と鳥飼と接していくよ…」


 精一杯の強がりだった。笑顔でいるように努めていたけど、きっと顔は引きつっていただろう。いや、今にも泣き出しそうな顔をしていたに違いない。心の中では、堪えきれずに既に涙があふれている。小さな心はすぐに涙で満たされる。このまま、涙の海で溺れ死ねたら、どんなによかったことか…。




 もし、あの時、花上が三十歳になってから、車にひかれそうな子どもを助けるため、命を捨てて助けると分かっていたら…。あの日、全てが壊れたとしても、自分の思いを伝えるべきだったと…田井島は今さらながらに後悔していた。今さら、そんなことを考えても仕方ないのに…。


 それにしても、このような結末になったと言うことは、花上春樹は学生の頃から全く成長していなかったと言うことか? あの頃と違って、鳥飼と結婚して、子どももいたというのに…。


 結局、十年前の鳥飼のグーパンチは花上の胸まで届いていなかった。あいつは誰にも断ること無く、勝手にこの世界からい無くなったのだから…。


 花上の幸せは、鳥飼の幸せだった。鳥飼の幸せは、田井島の幸せだった。だからこそ、田井島は二人の幸せを見守る道を選んだ。それがいばらの道だとしても…。例え、自分で愛する人を直接幸せにでき無くても、親友の手で愛する人が幸せになるなら、それでいい。いつしか、そう思えるようになっていた。


 二人が結婚してからも、何かと理由をつけては、二人の家によく遊びに行った。こんな幸せがずっと続くと思っていたのに…。


 しかし、そもそもの前提が間違っていたことにようやく気付いた。幸せな日々はずっと続いて、不幸なことは百年経ってもやってこないと言う考えが、都合のいい思考停止を引き起こしていたのだ。


 人は誰もが、明日は今日よりもさらに幸せになることを期待して、百年経ってもやって来ない幸福な夢に依存して生きている。


 そして、今まさに目の前に迫っている不幸に対しては、恐ろしいほど鈍感で、悪いことは永久未来やって来ないと高をくくっている。その結果がこれだ。


  田井島はもう二度と、根拠も無く未来を楽観視しない。どんなに苦しくても、ありのままの現実を直視することを堅く誓う。また、安っぽい幸せのために、安易に他人へ依存せず、自分の幸せは自分の力でつかみ取ることに決めた。そう思わないと、親友の突然過ぎる死が無駄になりそうで怖い。


 まずは、花上と鳥飼から独立することから始めよう。田井島正行はようやくたどり着いた家の前で、軽く両頬を両手で挟み込むように叩いてから、体中に勢いよく清め塩をまいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ