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30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第1章 突然の死
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突然の死①

 それはあまりにも突然の出来事だった。花上春樹が車にひかれそうになった幼い少年を、自らの命と引き換えにして助けた。何でそんなことをしたんだろうか…。


 少しは残された妻と子どものことも考えて欲しかった…。もう、この世にいない人にそんなことをぼやいても仕方ないけど、それでも妻としては何ともやりきれない。


 花上華はやっと歩けるようになったばかりの幼い息子・遥斗をどうやって育てていくべきか…ただ、それだけを考えていた。今、夫の葬式の最中で喪主を務めていたが、喪主といってもやることは、せいぜい最後の挨拶ぐらいだ。


 あとは葬儀屋がいろいろやってくれる。その挨拶さえも、葬儀屋の方がこのように言えばいいとカンペをくれた。葬儀屋の方は突然夫を失い、妻は気が動転していると思ったのだろう。


 そりゃ、動転もするさ。誰が見知らぬ子を助けるために、突然夫が車に飛び込むなんて考えるものか? それに子どもは八月八日で一歳になったばかりだぞ。


 まだまだこれからだったのに…。家を買おうと言って、買わずにそのままになっていることが、今となっては不幸中の幸いか…。ふん、何のなぐさめにもならない。それが九月八日の出来事で、その翌日のこの日は通夜の真っ最中であった。


「鳥飼、大丈夫か?」


 田井島たいのしま正行が華に声をかける。田井島とは大学時代からの腐れ縁である。田井島は結婚してからも、未だに私のことを鳥飼と呼ぶ。鳥飼は私の旧姓である。


 学生時代から三人はずっと一緒だった。私達が結婚してからも、田井島はよく我が家へ遊びに来ていた。田井島は春樹とも仲がよく、遥斗ともよく遊んでくれていた。こんな日々がずっと続くと思っていたのに…。


 それは春樹の突然過ぎる事故死で一瞬にして失われた。この世界に、神様や仏様がいると言うなら、相当嫌な奴に違いない。こんな世界で神様や仏様を信じられる人はよほどめでたい人々であろう。華には全く理解できない。


「田井島、ありがとう。もうすぐ、喪主の挨拶があるから、遥斗をちょっと見ていて」


 焼香を終えて、席に戻ろうとする田井島をつかまえて、さりげ無く声をかける。遥斗は親戚の誰よりも田井島になついている。田井島は身内でもないのに…。


 しかし、この場で遥斗に騒がれても困るので、遥斗を田井島に託す。遥斗は喜んで田井島に抱っこされていく。これで葬儀屋の方からいつ声をかけられても大丈夫。


「それでは喪主の花上華より、一言ご挨拶申し上げます」


 葬儀屋の方に呼ばれて、華は参列者の前に立つ。ふと、いろんな思いがこみ上げて来るが、ここではぐっと堪えた。とりあえず、今は自らの役目をきちんとこなそう。これさえ終われば、重役から解放される。

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