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1-2 病院に入る

 自動ドアが開くと、途端に、病院特有の匂いに包まれた。いろいろな薬が混ざりあっているのだろう、この病院でもほとんど同じあの刺激的な匂いが、そこが『異界』であることを侵入者に対して宣言する。

 おかげで、さらに軽い酩酊感にとらわれながら、やっと建物の中の明るさに露出があってきた目であたりを見渡してみると、二階までを吹き抜けにした大きな空間は、美術館のようでもあり、いろいろな表示札が行き先を示しているところは、ターミナル駅のようでもあった。


 だが、次の瞬間には、思わず足が止まった。そこには、思った以上に多くの人々が、それぞれの格好で、じっと何かを待っていた。特に、正面のカウンターの前は、何やらデパートのイベント広場か何かのように、大勢の人々が集まっていた。違うのは、決して、何か楽しいことを待っているという気分というか気配が、そこには欠如しているということだった。あたりまえのことだけれど………。

 僕は、総合受付というところへ行き、初診であること、数日前に車の事故を起こして、それ以来、首というか、後頭部から肩のあたりに痛みが残っていることを伝えた。

 能面のような看護婦に渡された用紙に名前や生年月日や住所、要するに僕が何者であるかを示す幾つかの事項を記入する。どれ一つとして僕が自分の意思で選び取ったものではないこうした情報で、僕はどうにかこの病院に存在を認められたのだろう、極めて事務的に、キャッシュカードのような診察カードが作られ、

「これを、整形外科の受付にお出しください。この先を左に曲がって、しばらく行った右側です」

と、告げられた。


 指示された方へ行ってみると、一番手前の内科から始まって、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、眼科、小児科などの札が両側に整然とならんでいる。そして、その間のスペースには、空港待合室のようにずらりと椅子が並べられ、それぞれの外来患者がぎっしりと座って順番を待っていた。こういう大きな病院は、実際のところ、初めてだった。今までだって、そんなに健康だったわけではないが、だいたいは家の近くの内科の医院か、会社の中の診療所で事は済んでいた。

 僕は、整形外科の受付けにさっき渡されたカードを出して、空いている椅子を探して、座り込んだ。それにしても、これだけの人がいたら、一体いつになったら順番が回ってくるのだろう。何か読む本を持って来なかったことを、心から後悔した。仕方がないのでとりあえず腕時計で時刻を確認してみたが、それも終わると、僕はもうやることをまったく無くしてしまい、両腕を組んで椅子に深く座り直し、ぼんやりと目に映るものを見るともなく見ていた。

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