<エピローグ>
待合室には、いつのまにか人が少なくなっている。
人々の喧騒は消え、静かな廊下に看護婦の歩く足音だけが響いている。
気がついてみると、目の前には、『午前中の診察は終了しました。』という札が出ている。
呼び出しのアナウンスを聞き漏らしたようだ。
僕はこの病院では受け入れてもらえないのか、と思った。
確かに、僕もほかの患者と同じように、ほんのちょっとした不運で、日常生活から切り離されてここに吸い寄せられるようにやってきた。しかし、目の前を通る車椅子や松葉杖の人々、苦痛に顔を歪めた人々を見る目は、あくまで他者を見る目であったことは白状しなければならない。
そういう運命まではまだ背負い込んでいない分、おそらく僕はまた会社に戻って、上司の叱責と、客の苦情と、部下の不満に耐えて、得体の知れない業績なる数字に操られながら、神経を磨り減らし、疲労を溜め込んでいかなければならない。
そうして、そのようにすること以外に、もう僕が積み重ねて行くべき人生の選択肢はないように思えた。
それが、いかに不条理なことであるかは、十分にわかっているにもかかわらず………
(了)