6-2 村人たち
しかし、それよりもその絵が語り掛けてくるのは、実は、その婚礼の場にあってそれぞれに飲み食いしている、要するに『その他大勢』の連中だ。
彼等は、今日は、近所に新しく嫁を迎えた家があって披露するからと呼ばれてきていて、つかの間の時間を、やはり同じように集まってきている連中とでつくりあげている喧騒の中で、おそらく普段は口にしないような酒や料理をひたすらに飲みかつ食っている。
だが、やがて酒も料理も終りに近づくと、ありきたりの祝辞と礼を述べて、散らかし放題のその場を離れ、いつもの家へと帰っていく。そして、不機嫌そうなかみさんに一応の報告をして、いつもの床につく。それだけのことだが、その一日は彼にとって、年に何回かの祝祭に違いない。
それ以外の日は、そう、昨日までも、そして明日からも、彼は夜明けとともに起き、家畜に餌をやり、畑にでかけ、粗末な食事をとり、ごく限られた人間と昨日までとほとんど変わることのない言葉を交わす。そういう毎日が、これからずっと、いつか死ぬ日まで変わることなく続いていく。そして、彼はそういう暮らしを変えてみることもできず、変えようとも思わない。いや、ほかにどんな人生があるのかを思ってみることもない。
そういう彼が、何日か前からこの日のために仕事の段取りをつけ、普段は着ることもなく吊してある上等な服のほこりを払い、少し念入りに髭を剃って、そうしてこの場に列席している。その日のそういう場は、彼にとって、おそろしく単調な毎日を耐えていくに値する晴れの場であるのか、それとも、単に毎日の仕事のリズムを破る句読点のようなものにしか過ぎないのか、それは分からない。おそらく、そこに集まってきている人ごとに、少しずつは違うことだろう。
しかし、いずれにしても、その連中にとっては、近所の家に嫁が来たという、よくよく考えてみれば自分には何の意味もないことのために、こうして一時の高揚した気分を味わっている。そのようにして、彼の一日が過ぎてゆく。しかも、それはその前後の毎日よりは格段に意味のある一日として………