4-4 ドイツの青年と
彼は、ドイツ人の学生で、やはり同じようなツーリストだ、といった。
「君は危なかった。まあ、直接に危害を加えるわけでもないが、ああやって癩病者たちに囲まれたら、ちょっと逃げ出せない」
「ああ、本当にびっくりしたよ」
僕は彼にどう感謝の気持ちを伝えたらいいのか分からなかったが、彼はそれには構わずに意外なことを言った。
「しかし、インドの第一日目にいきなりヴァラナシのガートというのは、ちょっと無謀だよ」
「え? どうして分かるんだ?」
「歩き方や、雰囲気でなんとなく分かる。君はまだインドのリズムを身につけていない」
「そんなものか。しかし、あの女は物取りではないのだろう」
「彼等は、富める者は貧しい者や恵まれない者に施しをして当然だと思っているんだ。また、富める者も、そうすることで神に近づけると思っている」
彼は結構インド通のようだ。だが、この話はどこかで聞いたことがあったから僕も応じた。
「なるほど。だから、『バクシーシ』と言って金をねだるときも、あんなに確信に満ちた態度をとるんだな」
「そう、決して卑屈にならず、自分たちの当然の権利でもあるかのように皿を突き出すんだ。ただし、僕らのようなツーリストがやったら大変だ。いわば部外者だからね。彼等だって、限度が分からないだろう。ひょっとしたら、ヴァラナシ中の『死を待つ人達』が集まってきてしまう」
「死を待つ人達?」
「そうだ。君も何かの本で読んだことがあるだろう。ヒンドゥー教は、恐らく世界で唯一、死ぬべき場所を持った宗教なんだ。もちろん、みんながそこで死ななければならないとしたら大変なことだが、現世で恵まれなかった人ほど、輪廻からの解脱を得るために、その『死に場所』に集まってくる。それが、このヴァラナシだ」
「思い出した。それで、ここには火葬場のあるガートがあって、そこで遺体を燃やしてもらい、灰をガンジスに流してもらうことが、最高の幸福とされている……」
「マニカルニカー・ガートだ。だからこそ、不治の病に冒された人々は、故郷での生活を捨ててこの町に集まってきて、そうして死ぬのを待つ。さっきの女もそうだろう」