表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/19

4-4 ドイツの青年と

 彼は、ドイツ人の学生で、やはり同じようなツーリストだ、といった。

「君は危なかった。まあ、直接に危害を加えるわけでもないが、ああやって癩病者たちに囲まれたら、ちょっと逃げ出せない」

「ああ、本当にびっくりしたよ」

 僕は彼にどう感謝の気持ちを伝えたらいいのか分からなかったが、彼はそれには構わずに意外なことを言った。

「しかし、インドの第一日目にいきなりヴァラナシのガートというのは、ちょっと無謀だよ」

「え? どうして分かるんだ?」

「歩き方や、雰囲気でなんとなく分かる。君はまだインドのリズムを身につけていない」

「そんなものか。しかし、あの女は物取りではないのだろう」

「彼等は、富める者は貧しい者や恵まれない者に施しをして当然だと思っているんだ。また、富める者も、そうすることで神に近づけると思っている」


 彼は結構インド通のようだ。だが、この話はどこかで聞いたことがあったから僕も応じた。

「なるほど。だから、『バクシーシ』と言って金をねだるときも、あんなに確信に満ちた態度をとるんだな」

「そう、決して卑屈にならず、自分たちの当然の権利でもあるかのように皿を突き出すんだ。ただし、僕らのようなツーリストがやったら大変だ。いわば部外者だからね。彼等だって、限度が分からないだろう。ひょっとしたら、ヴァラナシ中の『死を待つ人達』が集まってきてしまう」

「死を待つ人達?」

「そうだ。君も何かの本で読んだことがあるだろう。ヒンドゥー教は、恐らく世界で唯一、死ぬべき場所を持った宗教なんだ。もちろん、みんながそこで死ななければならないとしたら大変なことだが、現世で恵まれなかった人ほど、輪廻からの解脱を得るために、その『死に場所』に集まってくる。それが、このヴァラナシだ」

「思い出した。それで、ここには火葬場のあるガートがあって、そこで遺体を燃やしてもらい、灰をガンジスに流してもらうことが、最高の幸福とされている……」

「マニカルニカー・ガートだ。だからこそ、不治の病に冒された人々は、故郷での生活を捨ててこの町に集まってきて、そうして死ぬのを待つ。さっきの女もそうだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ