<プロローグ>
今日も、昨日とほとんど同じ時間に起き、同じ電車に乗って、同じ建物に入って行き、同じ人々に会って、同じようなことをして過ごしてきた。そして、同じようなテレビを見て、そうして、また同じように過ごす明日のために、そろそろ眠りに就かなければならない。
僕だけではない。たぶんあなたも、いや、誰もが、さして違わない毎日を過ごしているはずだ。
そのことがいけないとは言っていない。そのお陰で僕らはご飯を食べることができて、今日の命を明日まで繋げることができる。まるで、それがいつまでも続いていくかのように、そして、そのように命を繋げること自体に意味があるかのように錯覚して……。
錯覚?
確かに、穏やかな物の言い方ではない。ただ、そのような生活をしていると、今日は夕方から雨になるんだろうか、とか、明日は部長の機嫌は直ってるだろうか、とか、あの契約を纏めるにはあとどんな手を打っておけばいいか、とか、そんなことで頭の中は一杯になっていて、それ以外のことが入り込む余地がなくなってくる。あとは、そう、せいぜい政治家の力関係とか為替レートとかに思いをめぐらすことができれば、関の山だ。
だが、世の中は、本当はそんなことでは動いていない。もっと何か大きな、とてつもなく不条理なものによって僕らは生かされているということに、ある日突然、思い当たることがあったって、おかしくない。
それは、本当は、どこか遠い国の、険しい山を幾つも越えた先の絶壁に張り付くように建っている修道院の一室で、窓から差し込んでくる月の光に照らされながら、静かに、しかし劇的に訪れてきてほしいところだけれど、もっと身近なところだって、構うことはない。
例えば、病院の待合室のようなところでも……。