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#03 『招集』

#03 『招集(ミーティング)


 ■■■


 放課後の学校のある一室。そこはいわゆるフリースペースと呼ばれ、事前に教師に許可を取ればだれでも利用できるトレーニングルームである。広さは約10畳。至って普通のタイルで、主に学生の室内訓練や話し合いに用いられる。そこに俺と三条はいた。


「それで、ここにはいつまでいればいいのかしら」

「とりあえず呼び出している人たちに遅刻魔はいないから、もうすぐだと思うよ。ほら、来た」


 俺がそう言葉を告げると同時にばたんと喧しい音を立てて、ドアがこじ開けられた。


「はーい、私、遅れてなんかいないよね」

「あぁ、大丈夫だ。よく来てくれたな、舞華」

「それは集司がわざわざこんなところに呼んだのだからね。どうせ、あれの話でしょ? それでそこの人……三条さんだったかしら、なんでいるの?」


 この部屋に入って来た少女は息をつく間もなくマシンガンの如く喋る。


 こいつの名前は水地(みずち)舞華(まいか)

 薄ら明るい茶色のショートヘアに、ぱっちりとした瞳が目を惹く。全体的にちんまりとしているのになぜかある一部分だけ膨らんでいるという相反する特徴を持つ、三条とはまた違ったタイプの美少女だ。常に明るく、一緒にいるだけでこっちまで明るくなるような、そんな奴だ。舞華は俺の幼馴染で、なおかつ竜胆武術の妹弟子だ。学園に通うまではいつも一緒にいたと言ってもいいぐらいつきあいがあった。

 舞華の能力(スキル)はCランク創造系能力。舞華曰く「この能力(スキル)は『武器錬成(マテリアルアクト)』っていう名前がついているの」だそうだ。能力(スキル)に二つ名が付くのはAランク以上からなので、ただ単に舞華が言っているだけだ。舞華がいうところの名前通り、武器を作り出す能力なのだが、Cランクよろしくその武器は本物とは程遠くもろい。材質は砂のみで、一度の打ち合いしか保たない。その分、作り出せるものの形状は自由で、手に持てるほどならばどんなものでも大丈夫らしい。

 能力(スキル)込みで模擬戦をしょっちゅうやっていたが、この能力と組み合わせてくる拳闘術は厄介だった。壊れること前提で放ってくる武器の一撃が重く、隙を作ろうにも迂闊に動けば拳が飛んでくる。もっともおっちょこちょいなところがあって、そこに付け込んだりして模擬戦の勝率は俺の方が上だったが。




「あなたは、水地さん……私はただ、竜胆君と一緒にいるだけで」

「まさか、集司。三条さんをたぶらかしたという訳!? 私と言う女がいるのに!?」

「ちょ、それは違うぞ。俺は決して三条をたぶらかしてなんかないぞ。だいたいその物言いは何だ、まるでお前が俺の許嫁であるかのように言って……」

「違うの?」

「違うよ!」


 ……あぁ、頭が痛くなってきた。

 まず、舞華と俺はけして許嫁関係にあるわけではない。ただ、親同士が仲良く、酒の席とかそんなところでそう言う話が出た程度だろう。それを真に受けちゃって…… あいつにもきっといい男ができるだろうに。


「とにかく、三条は例の話に関係がある。だから問題ない。ほら、バカな話をしないで、さっさと入ってこい」

「うぅ……わかったよぅ、もう」


 先ほどまでの怒りはすっかり消え去りしょんぼりとした舞華が部屋に入ってくる。


「ほんとさぁ、傍から聞いていると二股掛けた男が一人目の女に許しを乞うている感じがするよなー」

「んなバカな話あるか……って、おい」


 俺の意識の隙間にするりと入ってくるようにどこからともなく言葉を掛けられる。俺は思わず振り返る。すると先ほどまでいなかったはずの男がそこに立っていた。部屋にいたはずの三条も驚いた表情を見せている。


「びっくりするような登場をするなよ、蜥蜴」

「いや、これは僕の趣味でね、仕方ないだろう、集司」


 その男の名前は涼宮(すずみや)蜥蜴(とかげ)。俺の友人で、ひょろりとした体格をして俺より少し身長が高い奴だ。ひょうひょうとした性格だが、付き合ってみればそう悪くない奴だ。この学園に入って初めて仲良くなったのがこいつだ。

 能力(スキル)はBランク状態変化系能力。端的に言えば物を凍らせる能力だ。この系統の能力は、例えば物を燃やしたり稲光を発生させたりと、結構派手な能力だ。ただ蜥蜴の場合、放出が苦手らしく目の前に吹雪を発生させたりとか大きな氷塊を生み出したりとかはできなく、地面を凍り付かせたり武器に冷気を纏わせたりとかを得意とする。


 たぶん、今こいつがこうやって部屋の中に入って来たのは能力を使ってのことだろう。元々気配を消すのが上手く、おそらく天井に手足を凍り付かせてへばるようにして、舞華が部屋に入ると同時にこっそり入って来たのだろう。まったく、どこか変わっている奴だ。


「どうせ、天井を伝って来たんだろう?」

「あたりー水地さんも呼んでいたことだし、どうせなら水地さんが来てからと思って天井に張り付いて待っていたんだよ。おかげで面白い昼ドラが見れた」

「うっせ」


 ほら、やっぱり。蜥蜴と言う名前よろしくまったく器用な奴だ。


「それで僕や水地さん、それにあの三条さんまで集めて一体どうしたんだい?」

「そうよ、やっぱりあの話?」

「あれ、まだ職員室前攻防戦の勝者は出ていないはずなんだけどなぁ」

「そうだ、その話であっている。まずは一旦席に座ってくれ」


 俺はみなを部屋の中央にある席に座らせると鞄から演習書類を取り出して、机の上に置いた。


「わぉ、ほんとにある……」

「さすが、というべきかな。それで、なぜ集司の名前の下に三条さんの名前があるか教えてもらっていいかな」


 俺は蜥蜴の質問に答えるようにして、昨日の出来事を喋った。


「ふーん、なるほどね」

「ふむふむ、よーくわかったよ」


 わかったようなわかっていないような、そんな返事を返してくる二人。ちゃんと話を聞いていただろうか。俺のこの武勇伝を。圧倒的に能力格差のある三条相手に立ち回ったこの俺の……


「つまり、集司は三条さんに脅されるようにしてパーティに入れたのね」

「そういうことだね、さすがは水地さん。わかっている」

「……間違いではないね、竜胆君? 悪いとは思っているわ」


 三人からそう言われてはどうしようもなかった。くそぅ。


「うーん、仕方ないと言えば仕方ないんだろうけどね。どうであれ名前を書いてしまえば演習パーティに入ることは決定だし、なにより集司を圧倒できるだけの実力があるならパーティ入りも悪くはないとは思うんだけど。だけど!」

「水地さん的には集司に纏わりつくどら猫が増えるようで釈然としないと。大丈夫だよ、こう見えても集司は巨乳好きだから」


 舞華の発言に被せるようにして言葉を放った蜥蜴が意味ありげな視線を舞華と三条のある一部分へ向ける。


 かたや、ででーんと盛り上がる山。

 かたや、つるーんと聳え立つ絶壁。


「おい、蜥蜴! なぜ、そこで二人を見た!」

「事実だろう、そこに何の疑問が?」

「たしかに三条は絶壁だし、舞華はロリ巨乳と言う奴だけどな。いや、そういう話じゃない。そこで俺の話を持ち出したかって」

「大体、君のお宝本は大概巨乳お姉さん物ばかりじゃないか。正直気の合う友人だと君のことは思っているけど、そういうところだけは理解できないと思うね。なぜ貧乳が正義であると気付かないのか。あの余分な脂肪が付いておらず自然な膨らみ、盛らずにそっと添えるだけの極上な造形をお前は馬鹿にするというのか」

「知るか、馬鹿野郎。女らしさと言うのは乳に表われるんだ、そこを間違えちゃいけねぇ。そもそも、誰もお前の性癖なんて興味ねぇ! お前、いつか捕まるぞ」

「ははは、Yesつるぺた、Noタッチの精神を守る僕には死角はない」

「そう言って、この前女子寮に忍び込もうとしていたこと忘れていないだろうな」

「な、なぜ、そのこと!? さては、君も……」

「ねぇよ! あの時はたまたまトレーニング中にお前の姿を見ただけだ。結局壁に張り付いて何がしたかったのか? 警戒厳重な風呂場に行こうとしていたのか?」

「甘い甘い、わざわざなんでそんな危険地帯に行かなければならない。僕はね、そんなところ行かずにもいい素晴らしい場所を見つけたのだよ。前回は下見だけで済ませたが、次こそは……」

「そうか…… も、もし、その時には俺も」

「いいだろう、その時は君も誘おうじゃないか。なに、例え趣味嗜好が違えど君は何より頼りになる友だ。誘わない訳ないだろう」

「蜥蜴、お前はやっぱりいい奴だな」

「あぁ、巨乳好きとはいえ君のことは信頼しているからね」


 俺と蜥蜴は互いに握手を交わす。



「ねぇ、話は終わったかしら」

「ちょーっと、話を聞きたいんだけど、いいかな」


 ぞくりと背筋が冷える。一体全体何が起きたというのだろうか。俺はただ、唯一無二といってもいい友と友情を深めていただけというのに……って、あ。


 俺はすっかり忘れていた。

 この部屋には、三条と舞華がいることに。


「私達の前で何喋っているの?」

「私達を放っておいて?」

「あげくに覗きの相談?」

「……水地さん」

「えぇ、三条さん」

「これは」

「お仕置き」

「「ですね!」」


 瞳を爛々と輝かせた般若が俺たちに襲い掛かって来た。



 しばらくの間、女性二人に謝り倒す男二人の姿があった。




 ■■■


「これでパーティメンバーは4人だね」

「あと一人で上限だけど、どうするかい集司? このままで行くか、あと一人集めるか」

「あぁ、そうだな。正直このままでもいいと思うが、出来ればあと一人欲しいところだ。戦力はいくら合っても困らないしな。もっとも最低でも連携が取れるやつじゃないと意味ないけどな」

「そうね、邪魔するようでは困るね」


 俺たちは『特別討伐演習参加書類』を前にそれぞれ椅子に座っていた。俺と蜥蜴の手には荒縄が、三条の手の中で拳銃(中には空気砲らしい)がくるくると回転し、舞華の手には能力で丹念に造られた金槌がぶんぶんと小刻みに振られていた。……覗き……お仕置き。体がプルプル震えてくる気がする。これ以上は考えるのはよそう。


「それなら一人心当たりがあるんだけど、いいかしら」

「ん、それは誰だ?」

「ちょっと、それは内緒。明日当たってみて、上手く行ったら連れてくるから」

「まぁ、それでもいいけど」


 むぅ、舞華が連れてくる人はいったいどんな人なんだろうか。


「とりあえず、もう終わり?」

「それでいいんじゃない? 他に何かある、集司?」

「んー、そうだな。メンバーが決まり次第、すぐに書類を持って行って登録するからな。書類をあんなやり方で手に入れたのだって、面倒事に巻き込まれたくなかったからだし」

「それはそれで後で面倒事になるかもね」

「『どうやってその書類を手に入れたというのか。はっ、まさかあくどい手を使って奪ったものじゃないのか』とかね。ありそうだよね、そういうの」

「……言いそうな人に、心当たりがある」

「それはともかくだ。すぱっと書類出し先生から認められれば問題ないだろう? 何かあっても、それはその時考えよう」


 俺の言い分にみんなはうんうんと頷いてくれる。正直俺のやり方はいろいろとグレーゾーンを踏み込んでいるからな、みんなもそこのところはわかって協力してくれることだろう。舞華や蜥蜴はきっと何も言わずに協力してくれるだろうが、三条さんは……って、三条は俺に脅迫してグループメンバーになったのだからむしろ協力しない他はないよな。率先して邪魔立てを排除すべきだな、うんうん。にしても、なぜ実力でも演習メンバーになれたはずの三条さんは俺を脅迫するという手段を使って演習に参加したかったのかがわからない。何か理由でもあるのだろうか。


「それじゃ、解散?」

「あぁ、みんなお疲れさん。明日またこの時間に集合しよう。舞華、もう一人の件頼んだぞ」

「うん、わかってるよ」


 さてさて、舞華が連れてくる一人とはどんな人なのか、今から楽しみだ。





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