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Beast Of Burden

 次の日はとてもよく晴れた。朝方まで雨は降っていたのが所々から滴り落ちる水でわかる。昨日はだいぶ遅くまでランと弾き明かしたので頭の芯に眠気がまだ残っている。

 いつもなら俺は起きない。特に飲み明かした日には起きるのが日が陰ってからということもしょっちゅうだ。しかしここでは少し違うみたいだ。

「あ!起きた?おはよー。今コーヒー淹れるよ」

俺はそれに返事が出来たかどうかもわからない。コーヒーか。美味いよなぁ。

 それにしても一瞬焦った。知らない間に女の部屋にシケ込んだのかと思ったわ。

あれほど怖いものはない。朝目が覚めたら隣に知らない女が寝てる。俺は記憶にない。そしてお互いが服を着ていないということで絶望の淵に落とされる。一瞬のその記憶が蘇っちゃった。

 それにしてもシチュエーションにしては悪くない。まるで同棲しているみたいだ。うむ、今まで考えたこともないが意外と悪くないのかもしれない。

 しかし考えるのはそこまでだ。俺が同棲ってガラじゃないのも自分で良く分かってるし、そもそもランは高校生だ。天下のJKなのだ。

 そんなことが俺の友人に知られたらどんな誹謗中傷を受けるか分かったもんじゃない。社会的に抹殺されるかもしれない。恐ろしい。

 ランがキッチンからマグカップを持ってこちらにやって来た。俺もそろそろ起きようと重い瞼をこすりながら上半身を持ち上げる。

 チラっと自分が服を着ていることさりげなく確認。うん、大丈夫。

「あー悪い。サンクス」

「良く眠れた?」

「まだ足りないようですが」

 ランから受け取ったカップを一口啜る。いやー相変わらず美味しいですねー。美味なり。少しばかりコーヒーの香りを楽しんだあと気付いた。ランを見て

「あれ?コスプレ?」

「ち、違うよ!学校の制服だよ!」

なんだ制服か。てっきりコスプレか何かかと勘違いしてしまいました。失礼。

「ん?じゃあ今日学校なんか?」

「そりゃそうでしょう。平日なんだから」

 確かに今日は平日だ。俺も学校があったような気がする。行くかどうかは決めていないけど。

「そりゃご苦労なこって。てか今何時よ?」

そう言うとランは棚の上の時計を見る。

「今は・・・・・・7時半だね」

「学校大丈夫なのか?」

「8時半までに一応登校何だけど、今日は遅刻かな」

「オイオイ大丈夫なのかよ?」

「んーまぁたまにはいいよ。問題ない」

 そういうもんかね。なんか悪いなぁ。俺も悪いっちゃ悪いし。

「ランの学校ってどこ?」

「私は燐華だよ。燐華高校」

 こりゃまたビックネームだこと。私立高校じゃ都内有数の進学校じゃないか。確かランはやることをやってれば問題ない高校とか言ってたけど、そういうレベルじゃない気がするぞ。

 学力と自由。それが燐華高校の校風だ。学力は高いがその分規律などが他に比べ緩いと言われている。ランも金髪だし。

 そして何より制服が可愛い。外国のミッションスクールみたいな制服だ。今をときめくAKB48みたいな感じ。実際これを目的に入る女子も男子もいるらしい。しかしその門はせまく厳しいのだが。

 だとすると遅刻はどうなんだ?やるべき最低限のことのようにも思える。俺が言うのも何だが。

 そう思う出すとちょっと気にしてしまう。俺ってこういう律儀さがあるんだよ。

「やっぱ遅刻は良くねーよ。な?」

「え?でももうバスとか間に合わないし・・・・」

「任せろ。ほら早く準備しなさいな」

「う、うん」

 不思議そうな顔で応えながらもランは登校の準備を開始。

とは言ったものの、ランはもう制服に着替えてたわけだし、どっちかって言うと俺の支度のが時間が少しかかってしまった。申し訳ないです。


 アパートの鍵を閉め外に出た俺とラン。今日はいい天気だ。

 横でスクールバックを抱えたランに見てみると、なんともまぁ大人びた高校生だ。金髪をなびかせておりますよ。

「自転車あるよな?」

「うん、それ」

そう言って指差す先には青い自転車が置いてある。良いセンスだ。

「んじゃー行きますか。早く後ろに乗れ」

「え?」

「いいからいいから。早く!」

 そう急かすとランが戸惑いながらも俺の後ろに乗り、両肩に手を乗せる。

「おーし。出発!」

 勢いよく自転車のペダルを押し込み走り出す青い自転車。


 走り出して直ぐにランが声を上げる。軽く振り向いてランの発する言葉に耳を向けた。

「ねぇ!さすがにこれじゃあ間に合わないんじゃない?」

「はっはっは!さすがにこれで学校行っても間に合わないわな」

「じゃあどうして?」

「今から向かうのは俺ん家だ」

 俺は笑いながらペダルを漕いで突き進む。そう、これから向かうのは学校じゃない。俺の家だ。

 さすがにこの自転車でランの通う学校までは遠い。しかも二人乗りならなおさらだ。

だけど俺には考えがある。今はそれを伝えるほど余裕がない。疲れてきた。

 俺ももう年なのかな?嫌だ嫌だ。


 ランのアパートから俺の家まではそこまで遠くない。何せ近所のブックオフで出会うくらいだし。時間にして10分かからないくらいで到着した。息が苦しいぜ。

 俺は我が城のアパートで止まりランを降ろす。降りたのを確認してから

「ちょっと待ってろ」

と言って部屋に向かう。駆け足で。

 1人残されたランは何が何だかよく分からなくなっていた。何で学校行くのにハイジの家に来たんだろう?どういうことだ?

 するとアパートの階段からハイジが駆け下りてきた。手に何か丸い物を持っている。その一つを私に投げ渡してきた。

「ほれ、それ着けて!」

 ハイジはそう言って、今度はアパートの後ろに駆け込んでいった。

 私は渡されたものを見てみる。直ぐにそれが何か分かった。

ヘルメットだ。

 アパートの裏手から低く唸るような音がした。一定の規則で唸るその地響きはうるさいというよりも心地よさを覚える。ベースみたいだし。

 ハイジが姿を現す。黒いバイクにまたがって。

「待たせたな。ほれ、後ろに乗っておくんなし」

 ブォン!と一回吹かした。


 ランはハイジの乗るバイクに駆け寄り後ろのタンデムによじ登った。バイクに乗ったことがないので勝手が分からない。

 一瞬よろめいたが何とか後ろに座ることが出来た。ハイジがこちらに顔を向けた。口にはタバコが咥えこまれている。

「お、乗れたか。んじゃまぁしっかり掴まってな。それなりに飛ばすからさ」

 そんなことを言うと少し笑い、もう一回エンジンを吹かす。

何となくそれがスタートの合図に思えたので、ランは適当にハイジに掴まる。

 ギアが噛み合いエンジンから送られるパワーがバイク全体に走り、タイヤがジリっと進み始めた。

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