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Un re di demone  作者: クドウ
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翌早朝。

カナトの代わりにサイが、ヨハリアへ旅立った。

もしもニイナが迫害されていたら即刻隔離するためだ。

迫害されていなければ、サイは文を渡して戻って来る。

お悔やみと税金は来月に2月分支払う様、文に記してある。

そしてもう一通。

エイミに文を書いた。

もしも今後迫害され、居辛いと感じたら、エイミ共々王宮で受け入れる。

そういった内容だ。

この文を伯爵家の子息たちに見られるわけにはいかないので、こっそり渡すように指示。

王宮に来る場合は早急に文を寄越すこと、その際もう一通次期伯爵当主に渡す文も預けておく。

エイミとニイナを王宮に貰い受けるので丁重に扱うようにといった文である。






カナトは今、王宮の近くにある森へ来ていた。

竜の森と言われ、濃厚な魔力漂う悪しき場所。

普通の人間ならば立ち入らないような、モンスターの蔓延する森だ。

カナトにとってそれらは敵ではない。

モンスターは意外と賢い。

ほとんどのモンスターはカナトが通ると怯えて道を開ける。


森の最奥。

その岩場にドラゴンは住んでいる。

灰色の、10メートルに満たない、小柄のドラゴン。

何故だかやたらカナトに懐いているのである。


「きゅーぃ」


カナトが現れるとひょこりと顔を出し嬉しそうに寄って来る。

きゅるきゅると甘えてくるので輝く鱗を撫でてやる。

そうすると気持ちよさそうに鳴くのだ。


「きゅぅ」


王宮に居て仕事をしても勉強をしても落ち着かないカナトは、アニマルセラピーにやって来たのである。

確かに癒されはするが一時凌ぎ。結局のところサイが帰って来るまで落ち着かない。

分かってはいるものの、どうにも落ち着かず、ドラゴンの元へやってきた。


「はぁ~・・・」


今頃妹は、ニイナは、泣いているかもしれない。

強がりで意地っ張りな性格をしていた彼女だが、泣き虫でもあった。

カナト以外の前で泣くことはなく、泣いたら負けだと思っていることもわかっていた。

今もきっと1人でこっそり泣いているに違いない。

せめてエイミか、他の侍女でも良い、目の前で泣ける人が1人でもいれば良いのだが。


「戻るか・・・」


溜め込んでいる仕事があるわけではないが、あまり長い時間城を空ける訳にも行かない。


「きゅきゅ」


「またな」


撫でると、しっぽを振りながらついてくる。

いつもは岩場に戻り、カナトが帰るまでこっそり覗いてくるのだが。


「なんだ?」


「きゅー・・・」


「見送ってくれるのか?」


「きゅーぅ」


違うようだ。

ドラゴンの心は覗いてみても見えない。

精々大まかな感情が分かるくらいだ。


「・・・一緒に来るのか?」


「きゅ!」



どうやらついて来たいらしい。

ヲウルには反対されているのだが、さてどうしたものか。

カナトは少し考えて、連れて帰ることにした。

ヲウルもこの愛らしい生き物に会ってしまえば反対などしないだろう。

会ってないから反対する。会ってしまえば情も湧くというものだ。


普通に戻れば目立つため、ドラゴンに乗り上空から王宮の裏手から降りる。

そうすれば城下町からは見えないはずだ。

大神殿からは見えるかも知れないが、あそこは王宮は不可侵だと思っているので口出ししないだろう。


予定通り王宮の裏手から潜り込む。 

自分が出来るということは侵入者も同じ手口を使えるということだ。

これは改善の余地があるな。

ただ空からの侵入は一般人には無理だ。

ドラゴンは元々人間に使役される存在ではない。


「あ!ドラゴンだ!」


「すっげぇ!カナト様、どうしたの?飼うの?」


「あぁ、ヲウルが良いって言ったらな」


「マジでー!?やったぁ!」


初めてのドラゴンに、興奮ぎみのシバとアズマ。


「だからヲウルを説得するんだぞ」


「「はーい」」


ヲウルは意外とこの2人に弱い。

まだ幼いからかもしれない。

しかし幼いといっても(おそらく)14歳。

栄養が足りてないせいか、サイより二つしか下でないのにもっと年齢差があるように見える。

因みにカナトも外見年齢17、8歳くらいと、あまり年齢は変わらない。



「・・・何の騒ぎですか、これは」


ひくりと口元を引き攣らせ、ヲウルがやって来た。


「ねーさいしょー!ドラゴン飼って良い?良いでしょ?」


「おれちゃんと世話するからー」


野良猫拾った親子の図だな、とカナトは吹き出しそうになる。

確かに馬番であるアズマが世話をすることになると思うが。


「王よ。どういうことですか、これは」


「ついて来た。力は強いし抵抗できないだろう?」


「っく。嘘ばっかりつきおって!!」


「嘘じゃないって。なぁ?」


「きゅーぃ!」


「ほらな」


「くっ・・・!!アズマ!!きちんと世話をするように!!王もですぞ!!」


1人ぷりぷりと怒りながら王宮へ戻って行く。


「良かったな。それじゃ寝床を用意しようか」


馬舎はそれなりの広さがあり、馬は数頭しかいないため、場所はある。

馬が怯えるかと思ったがうまい具合にドラゴンはボスになったようだった。

馬が一斉に頭を下げるという珍しい光景が見られた。




◇◇



数日後、サイが単身戻って来た。

現在のところ迫害されているといった事実はなく、もしも状況が悪化すれば王宮を頼るかもしれないが、目下のところは大丈夫だという。

一先ず安心だ。

このままニイナが平穏な日々を送れると良いのだが・・・。












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