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ヲウルを教育係にしてカナトとサイは勉強漬けの毎日である。
元々仕事もないので本当に勉強の時間ばかりとなる。
前々世で割と勉強慣れしているカナトは苦痛ではないが、サイは毎日疲れきっている。
この国の教育レベルはあまり高くない。
午後はレイピアの扱いを覚えさせるため、剣術の時間を設けている。
サイは筋肉ないくせにこちらの方が良いらしい。筋も良い。
宝物庫から漁った魔法弓とレイピアを腰に下げ嬉しそうにしている。
カナトも同じく宝物庫から宝玉のあしらわれた片手剣を腰に、死神の鎌のようなものを王座の横に立て掛けている。
鎌の方は経験はないが、威圧感があっておもしろいかも、という理由で手元においてあるだけだ。
「そろそろ本当に使用人が欲しいな」
もうすぐ納税の時期だというのに、3人しかいないなど見栄えがしない。
せめて近衛と門番は欲しい。納税のときだけでも良い。
「あーそうか、そうだよな」
「・・・独り言ですか」
「アンデッドとかどうだろう」
「ちょ、やめてくださいよ!?ホラー反対!!」
「ち」
サイの猛反対を食らったので他の方法を考えるとしよう。
アンデッドなら作れるし、良いと思ったんだがなぁ。
「じーさん、森の精霊と龍と、どっちが良いかな」
「どっちも却下です」
「人間はアテがない。作れもしない。しかしせめて納税までに門番と近衛くらいはいるだろう?」
「そうですね・・・一応町に御触れを出しておきましょう」
「頼む。ついでに調度品も売りに出しておいてくれ」
「・・・やはりあれは売るつもりだったのですね」
「あぁ。趣味に合わん。その金で使用人を雇えば良いだろ、よっぽど有意義な使い方だ」
「・・・畏まりました」
◇
しかし。
予想通りではあるのだが、一向に使用人希望はこない。
やはり奴隷か。孤児というのもありだろうか。
「じーさん、とりあえず町に行く」
「王が、ですか」
「ああ。教会横に孤児院併設してたよな」
「しかし王自身が町へ行くのは騒ぎになるかもしれません」
「かまわん」
いやかまうのは町民だ、と思ったものの、止められないことを悟り早々に諦めた。
城下町は今までと変わりなく、賑わっていた。
しかしカナトの存在を発見するや否や建物の中に逃げ込むもの多数。
カナトはそれを気にするでもなく町を歩く。
各店も閉めたかっただろうが、気付いたときにはもう遅かったらしい。
閉め遅れてしまった店を、カナトは物珍しそうに見学する。
「おい店主、これは何だ」
「は、はいっ!これはチャインという果物でふっ!」
「果物ね。一つ貰おう。サイ」
「あいさー」
サイに声をかけるとサイがコインを支払い、果物を受け取る。
珍しい食材を見つけては次々と購入していく。
いつもすぐに食べられるものしか買わないので、サイも珍しいようできょろきょろしている。
「・・・王よ、何をしに来たのですか」
「あぁそうだった孤児院な、孤児院。どっちだ?」
「こちらです」
教会の孤児院に向かう。
大抵の孤児は生贄か、神兵になる。
神官になるのはそれなりの身分が必要なのだ。
「結構いるな」
ヲウルから孤児院の責任者に話を通す。
孤児院としてもいて助かる存在ではないためとんとん拍子に話は進む。
環境は良いとは言えず、これなら城に引っ張れるかもしれない。
「俺は王だ」
子供を一室に集め、声高に宣言するカナト。
何だか痛いひとみたいなんだが。
「噂を聞いたことがあると思う。神官や神兵をたくさん殺した。儀式を無くしたかったからだ」
子供達は怯えた目でカナトを見る。
ここに助けを求められる人なんていない。
子供たち皆で身を寄せ合っているしかないのだ。
「食べ物も、着るものも、ここよりはいっぱい買える。給金は支払うし、逆らわなければ殺さない。仕事で失敗しても暴力は振るわない」
ここで子供たちの声を読んでみる。
怖い、殺される、嘘だ。
そんな声がカナトの中に流れ込む。
もっと深く読む。
・・・お肉、食べたい。お魚、食べたい。
・・・ここからでたい。
「2人か。思ったより少ないな」
カナトは2人の少年の腕を取る。
「サイ、この2人を連れていけ」
「え!?」
「!!??」
「大丈夫だ、ここにいるより良い生活をさせてやる」
パニックになっている2人の少年に、割と優しく声を掛ける。
「サイ、先に城へ戻ってこいつらに部屋をやれ」
「あいさー!」
◇◇
「次は、どこへ」
疲れた声のヲウルと共に次なる目的地へと移動する。
「・・・裏通りですか」
怪しい武器屋、密売品を扱う店、娼館、違法だらけの裏通り。
カナトはこの通りにならもしかしたら奴隷がいるかもと思ったのである。
しかし・・・。
「騒がしいな」
「そりゃあそうでしょう」
違法している店は、王の逆鱗に触れ殺されるかもしれないと怯え逃げ惑う。
「・・・奴隷を買おうと思ってたんだがな」
「店じまいしてそうですね、諦めてください」
「仕方ない。明日にでも出直して腕の立ちそうなのを買っといてくれ」
「・・・畏まりました」
諦めて帰ろうとするカナトに、娼婦の集団が目に入る。
客引きをしていて逃げ遅れたのだろう。
殺されるかもしれないと怯え、震えている。
そんなに恐がらなくても殺す気はさらさらない。
「ひっ!」
カナトの視線で怯え、嗚咽を漏らしている者さえいる。
どんな扱いだ。
その中で1人、可笑しな者がいる。
肝が据わっているのかなんというのか。
「そこの女」
「ひぃっ!」
誰が呼ばれたのかわからないため返事も出来ず、娼婦たちは寄り添って怯えている。
「赤いドレスの女だ、そう、お前」
カナトは再び赤いドレスの女の心中を読む。
・・・何かしら、殺されるのかしら。でもほんっと、いい男!まだちょっと若いけど、美味しそう~
「城に来い」
「あら、買って下さるということかしら?」
・・・ヤッた後に殺されちゃうかしら
「買うというか、雇う。俺専属の侍女になれ」
「じ、じょ?」
・・・私侍女なんてしたことないんだけど。侍女って儲かるかしら?
「給金は今の稼ぎより多く与える。仕事は教えるから大丈夫だ。来い」
「は、い・・・」
・・・まぁいいわ!かっこいいし!
「王よ、娼婦を侍女などと・・・」
「かまわん。それに夜も働いてもらうしな」
「左様ですか・・・」
ヲウルは呆れて溜息をついた。
しかしカナトはそんなこと気にしない。
こうしてカナトは3人の使用人をゲットした。