30
思わぬところから、疫病患者の救出方法を得、リハビリ後、二人も王宮で働くことになった。
「さてどうするかな」
王の職務はそう難しいものはなく、ヲウルもいるのでお飾りで構わない。
前王を呼び戻すか、他を探すか。
どちらにせよ国民が不審に思わないようにしないとな。
神殿はカナトが裏から押さえていれば良いという結論に落ち着く。
王という立場じゃなくてもそれは出来る。
「西の果てに城を用意致しますヨ」
人がいないとはいえ、そんな目立つものを用意していいものだろうか。
いっそのことカナト個人の領地にしてしまうか。
隠居生活も良いかもしれない。
「ソウソウ、ナカさん以外は連れていかなくて良いノデス?」
「ナカも連れていくつもりはないが」
巻き込む可能性がある以上、誰も連れて行かない。
「デスガ彼女、もう人間ではありませんヨ」
「は?」
「魔族が他種族に一定以上の体液を注ぐと従属化するんデスヨ」
「……は?」
「ナカさんはすでに従属化が進んでいるようですノデ、連れて行った方がよろしいカト」
よくわからないが従属化すると、主と寿命の長さが同じになるらしい。
もちろん殺されれば死ぬが、主が死んでも死ぬ、と。
「うわぁ……」
無意識に人間じゃなくならせてしまったと。
どう責任を取れば……。
「彼女は一生仕える、と言っておりましたガ」
「だからナカに話していたのか……」
「ソウデスヨ。あと、ニイナさんはどうするのデス?」
「ニイナは人間だろ。置いていくしかない」
「一生傍にいると約束したのデハ? 従属化してしまえばいいだけでわないでスカ」
すでに血は繋がってないとはいえ、ニイナは妹だ。
ナカと同じ扱いは出来ない。
「ニイナを魔に染めるなんて出来るわけがないしな」
「そういうモノですカ。それで彼女が納得するとは思えませんガネ」
「…………」
否定出来ない。
結局前王を呼び戻すことになった。
ヲウルがそのまま宰相として残るため、仕事は問題ないだろう。
城に残る面々が何かあればカナトに連絡をいれる手筈になっている。
瞬間転移魔法があるので移動は容易い。
神殿にはよく脅しをかけた置いたし、少なくともトップが変わるまでは安心だろう。
ローレルの子供が生まれるころには土産を持ってまた来たい。
それまでは西の果て・コスタで魔族を統べているとしよう。
よくわからないがディルシャはカナトに仕えるというし、反逆者が出ないようにすればいい。
人間と違い、魔族は力で押さえつける方がお好みのようだ。
「カナト」
「ニイナ、どうした?」
「本当に、私を置いて行くの……?」
これまで何の不満も洩らさなかったニイナが、出発前夜になって初めて口を開いた。
「私も連れて行って、カナト」
「それは、無理だ。ニイナを危険なところには連れて行けない」
「従属化すれば体は丈夫になるし、寿命も延びるってディルシャが言っていたわ」
くそ、余計なことを。
「お願い、カナト……」
しゅるりと帯が解かれ、衣類が床に落ちる。
月の光に照らされ、白い肌が露わになる。
美味しいシチュエーションのはずなのに、美味しくない。なぜだ。
柔らかな肌に包まれる。
妹でさえなければ美味しく戴く場面なのだが。
本当に残念だ……。
「ニイナ……お前には真っ当に生きて欲しいんだ」
「カナト……そういうと思ってたわ……だから……」
ニイナの手元が淡く光る。
そして光が刃の形に縁取りはじめ、それはカナトの胸に突き刺さった。
ニイナの瞳は虚ろ。
これはあれか、あなたを殺して私も死ぬっていう。
それもいいかもしれない。
しかし今ここで死んでは城の人間全滅なのではないだろうか。
死魔力というやつで。
心臓に突き刺さる前に治癒すれば間に合うか。
自分でもびっくりするほど冷静に、治癒魔法を掛けた。
「……塞がらんな」
「特殊な魔法だもの」
くすくす、とニイナが笑う。
「ディルシャが教えてくれたの」
どういうことだ?
結局ディルシャは魔王を殺したかったのか?
でも人間が魔王を殺した場合、どうなるのだろう。
聞いておけば良かったな。
もしもこれでニイナが魔王になったりしたらすごく困るぞ。
そもそもニイナとディルシャが何の話をしていたか、結局分からず終いだったわけだが。
こういうことだったのだろうか、と考える。
最期に思考することがこんな内容とは。
『我、ニイナ・フリュイは魔を統べる者・カナトの永久の僕とならん!』
「は?」
呆然としている間にカナトの傷は塞がった。
「これで、ずっと一緒にいられる……」
微笑みながらカナトに抱き着くニイナ。
何がどうなったのか、よくわからない。
「終わったようデスネ。無事従属化出来たようでヨカッタヨカッタ」
「……どういうことだ」
「何も性交じゃなくても従属化は可能なのデスヨ」
「これでもう置いて行ったりしないわよね? ずっと一緒よ、カナト……」
「…………」
もう、どうにでもなれ。