28
「どういうことだ」
剣術大会初日。
予めわかっていた参加者は、カナトがトーナメントを組み、初戦を終えた。
続いて当日参加者を受け付け、順に入れ込んでいったわけだが。
「それが、そのー、一応とめたんですけど……」
ニイナが何故か闘技場に立っているのだ。
カナトは何も聞いていない。
サイが申し訳なさそうに項垂れる。
「何がしたいんだ……」
正直、何の意味もない。
賞品にした宝剣だってニイナが欲しいというならすぐさま渡したし、騎士団に入りたいなら渋々許しただろう。
力試しというのなら、ダイに勝ててない時点で分かっているようなものだ。
好戦的といえば好戦的な性格ではあるが、カナトの反対を押し切ってまで参加する意味があるだろうか。
騎士団の連中の中ならともかく、完全に味方とは言い切れない参加者の中に、弱点を晒すようなマネはしたくなかったのだが。
「気になる人がいるそーですよ」
「は?」
「あの人」
「……」
サイの指差した人物は、長髪の、あの不審人物だった。
「気になるとはどういう意味だ」
カナト、私、この人と再婚するわ!ってなったらどうするか。
暗殺か抹殺か惨殺か。
あの男にお義兄さんとか言われたら気色悪い。
「どういう意味ですか?」
不思議そうに首を傾げるサイ。
「……あぁ、うん、いいわ。何でもない」
ナカに聞こう。そうしよう。
というかいつの間にあの男と接触したんだ……。
そこそこの腕を持つニイナは、すんなりと初戦を勝利で飾った。
次の対戦相手は当日参加で情報がない。
しかし先ほどの試合を見る限りではニイナに軍配が上がるだろう。
このまま数回勝ち進めば、あの不審人物に当たる。
不審人物に関して情報はないが、腕はかなり立つようだ。
他に目立つのはやはりダイだ。
あとはオウザイアス・モーズィズ・リフレクト。ダイの元同僚だという男。
予想ではオウザイアスかダイが不審人物と決勝戦であたる。
カナトが相手をする場合、オウザイアスとダイは同レベル。
しかし互いが試合うとなれば確かに相性が悪そうだ。
「微妙だな」
上位者にはぜひとも騎士団に入ってもらいたいところだが、すでに他国の騎士団に所属するオウザイアスはそれも難しい。
ディルシャにしても不審すぎてあまり入団して欲しくないというのが本音だ。
そこそこの腕で無所属の人間もちらほらいるが。
そしてカナトの予想通りに試合は進む。
ニイナとディルシャの対戦となった。
試合中だろうがなんだろうが、不審な動きがあればすぐに仕留めよう。
開始の合図が鳴っても、双方動かず。
カナトの位置からは聞こえないが、何か言葉を交わしている様子だ。
「くそっ……何を話している」
カナトに聞こえない筈はないのに、聞こえない。
あの男の仕業か。
駆けつけると同時、ニイナが降参した。
何を話していた?
悪寒が走る。
「カナト!」
カナトに気付いたニイナが、闘技場から駆け降りる。
「ニイナ、無事か?」
見たところ、外傷はない。
「大丈夫よ。ほとんど受けてないもの」
ニイナを抱き止めながら、ディルシャを睨む。
ディルシャは笑っている。
「王は、本当にニイナさんがお好きデスネ」
思わず舌打ちする。
「何が目的だ」
「目的? 目的……王に仕えるコト、デスカネ?」
嘘くさい。
「上位に食い込めば騎士団に入れてくれるのデショウ?」
「お前は嫌だ」
「オヤマア。嫌われてしまいましタカ」
首をかくん、と傾ける。
その仕草も、言葉も、声も、すべてが気に食わない。
「ニイナに近付くな」
ニイナを庇う様に抱き込み、その場から離れた。