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十字に神語の後光をイメージしたシンボル。
それがガデス神教を表すものだ。
神殿の屋根には必ずその十字が掲げられており、神官たちも信者たちも大抵それを持つ。
ガデス神国はガデス神教の総本山。
神教あっての神国である。
国民総てが信者と言っても過言ではない。
他国の信者も度々訪れ、それによって栄えている。
国の中央に大神殿、東西南北にそれぞれ神殿がある。
小さな村や町でさえ必ずといっていいほど教会がある。
カナトが用があるのは、大神殿。
新の月に年に一度の儀式があるからだ。
カナトはこの儀式を永久に、失くしてしまいたい。
それが神の怒りに触れるとしても、だ。
◇
カナトの現在地点はワツクのようだった。
神国の北部、神殿のある場所だ。
故郷・ソイールとは大分距離があるが、大神殿に向かう途中にヨハリアがある。
ヨハリアは、妹が嫁いだ筈の土地だ。
途中、ヨハリアに立ち寄り、大神殿に向かう。
馬を使えば1晩で辿り着く。
夜になったら闇に紛れて馬を頂こう。
夜になると大半の神官は眠りに就く。
夜番の者が数人、詰め所にいるだろうが、馬舎にはいない。
見張りはない。
魔法で人払いはしているようだが、カナトには関係ない。
魔法を解除し、比較的大人しそうな馬の手綱を手に取った。
念のため神殿から死角になる場所まで移動し、飛び乗った。
◇◇
夜明け前、ヨハリアに到着した。
ヨハリアはエン・ヨハリア・モーガン伯爵の治める土地。
先妻との間に息子が3人、愛妾との間に2人の娘がいた筈だ。
カナトと妹が9歳のとき、先妻が亡くなり、妹が見初められ嫁ぐことになった。
とはいっても妹の年齢もあり、3年以上先の話だった筈だ。
あれから10年以上経っている。
既に嫁ぎ子供も産まれていることだろう。
好色ではあろうが、金はあり、悪い領主ではなかった。
きっと優しくされているだろう。
幸せであれば良い。
◇◇◇
「ここの領主様はどんな人だい?」
酒場で酔っ払った集団に目をつけ、話掛ける。
「あん?何だてめぇは」
「今引っ越し先を探していてね。どうせなら良い領主様が良いだろう?」
「なるほどなぁ」
くい、とショットグラスを傾けて酒を飲み干す。
どれだけ飲んでも仲間が注いでいくが、朝っぱらからこんなに飲んで大丈夫なんだろうか。
「良い領主様だよ。仕事はあるし、金払いもいい」
「ほう。どんな仕事だ?」
「今橋を架ける工事をやってんだ。夜間工事だからな、こうして朝から飲めるってわけさ」
なるほど確かに今いる客は割と恰幅の良い連中ばかりだ。
細見の学者風情など1人もいない。
「お人柄はどうだい?」
「まぁ良いんじゃないか。女癖は悪いが民に無茶苦茶するような人でもない」
男の言葉に嘘はないようだ。
「後継ぎ問題や夫人に問題は?」
「問題ないね。長男が跡目を継ぐだろうし、内乱になることもないだろう」
「それは良かった。後継ぎ問題に巻き込まれるの勘弁だからな」
「なんだ、若いのに苦労してんのか」
「まぁね。それで、夫人は?」
「うん、まぁ、外に出ない方だから良くわからんな」
「ほう・・・。何故外に出ないのだろう?」
「後妻だから肩身が狭いのかもなぁ、それに市井の出らしいぞ」
妹の情報は思ったより少ない。
屋敷の侍女にでも聞き出そうか。
「そうか。ありがとう」
銅貨を3枚程置いて立ち上がる。
侍女が立ち寄りそうな場所に行かなくては。
◇◇◇◇
モーガン伯爵邸の侍女はすぐに見つかった。
家紋が入ったものを持っているのですぐにわかる。
大量の荷物を持った10代前半に見える少女だ。
「お持ちしますよ」
笑顔で荷物を引き受ける。
「え?」
「大変そうだから」
にっこりと笑えば侍女の顔が赤く染まる。
カナトは自分の顔を自覚している。
使えるものは何でも使わないと、損だ。
「それで、どこまで運ぶの?」
「え、あ、あ、大丈夫です!自分で持てますから!」
「でも、今にも落っこちそうだったよ。割れものとか、ない?」
持った感じでジャムやワインなどが含まれていることがわかる。
落としてしまえば侍女の給金から差し引かれてしまうだろう。
「あ・・・」
「いいからいいから。変わりにこの街のことを教えてよ。越してきたばかりなんだ」
「あ、ありがとう・・・」
女という生き物はどうしてこうも、おしゃべりが好きなのだろう。
情報を引き出しやすいという意味では良いのだが。
いい加減な相槌を打つカナトを気にも止めず、侍女・エイミは話続ける。
幸運にもエイミは妹の専属侍女の一人らしい。
いつもは買い物の量はさほどないのだが、今日はたまたま次男の侍女に掴まり、ついでにと買い物を頼まれたのだという。
明らかにひとりで持てる量じゃないわとぷりぷりしている。
じゃあ引き受けるなよ。
やはり妹の立場は弱いらしい。
それでも苛められているわけでもないし、何でも与えられるので不自由はしていないようだ。
エイミの他にも味方もいるようだし、大丈夫だろう。
エイミの言葉に一切の嘘はない。
心を読んでも口にしている言葉と相違ない。
カナトは心を読むことが出来る。
前世でも前々世でも、そんな真似は出来なかった。
ただ現世では、ただ読めるということを覚えていた。
読み方も、制御の方法も、覚えていた。
現世で使える魔法が、前世と違う種類のものだということも覚えている。
だが何故使えるのかなどは、一切覚えていない。
それは覚えてなくても問題ない。
遣い方さえ覚えていれば、それだけで充分だ。




