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会議も納税も問題なく終わった。
ニイナが城に来て初めての納税だったわけだが、ヨハリア伯爵はニイナについて何も触れず帰って行ったので一安心。
今更返せと言われても困る。
返さないけど。
むしろ黙らせるけど。永遠に。
サイやナカも貴族の対応に十分に慣れてきたし、メイドたちも問題なさそうだ。
女子供受け、とそれ中心で考えていたカナトは、結局季節を重視することにした。
夏だし、プールでいいだろ。
……投げたともいう。
場所は闘技場のすぐそば。
雨が降っても利用できるようにドーム型。
年中利用可能なように水は温水。
流れるプールや波のあるプール、スライダーも作る予定だ。
おもしろそうなので滝や噴水も作る。
噴水は見せものとして色々工夫できそうだ。
溺れる人間が出るだろうと予想出来るため、泉の精霊に協力してもらうことになった。
設備はカナトと精霊の魔法が要となる。
ゆくゆくは魔法なし、魔道具メインにしたいが、祭りまでに間に合わないので今回は諦める。
「となると、かき氷と焼きそばははずせん」
プールにはかき氷と焼きそば。
カナトの中では、であるが。
焼きそばはリリスフィアに似た料理があるし、かき氷もイチイに言えば材料も道具も入るだろう。
他にもそれらしいものを適当に頼んでおこう。
ヲウルに通さないわけにはいかないし、まずは見積もりだな。
数日後にある会議に間に合わせたいので少し急いでもらうか。
ガデスに水着はない。
海や川で漁や水浴びをするときは、薄い布地か何もつけないかの二択。
さすがに施設での全裸は問題だ。
薄い布地も困ったことになると予想される。
水着の開発も必要か……これはイチイ経由でリリスフィアの王妃に頼んでみるか。
今回に限り無料レンタル、祭りの後は販売となるだろう。
浮き輪などの小道具はヒツジ商会の魔玩具を購入。
こちらも無料レンタルだ。
「というわけでどうだろう」
作った書類を配り、会議中。
神官からは反論も意見もない。
そんなに恐がらなくても殺したりしないのだが。
「……赤字にならないのならば賛成だが……」
渋るヲウル。
確かに今まで娯楽施設がなく、前例がない状態。
本当に利益が出るのか、損失が出ないのか、まったくわからない。
「祭りだけで考えると、まぁ赤字は確実だがな」
入場無料、レンタルも無料。
材料費工事費はかかる。
黒字になるわけがない。
「今回この工事に、無職者を優先的に採用する。国内なら遠方からでも良い。宿泊には闘技場を使う」
そのまま数名は施設職員として採用する予定だ。
「食事は支給。ただし給金は安めにする。頑張り様によっては工事終了後に特別給金を出すが」
人が集まらないと困るので、こちらの指揮は神殿に取ってもらうことにする。
設計図はカナトが用意したものを、現場監督に採用した技術者に確認してもらった。
技術的に無理な部分は魔法でなんとかする、とごり押し。
材料の仕入れは目途が立っているので、人が集まり次第作業開始出来る。
「祭り3日間は施設を開放、あとはとりあえず集客の見込める期間だけ解放して……そうだな、神教徒は価格を安くしよう」
価格の差別化は集客に良い効果だ。
せっかく安くなっているのだから、と利用する人間は多い。
「実際の費用はここな」
ヲウルの見ている書類を指さす。
材料費 + 人件費(給金+生活費) + 備品・道具費その他 ≦ 入場料
祭り後、この式が成り立つことが理想なのだが実際は難しいだろう。
だがこの施設、国の施設であって個人のものではない。
マイナス分を他の黒字から持ってくれば良い。
一番手っ取り早いのは税金だ。
今のところ税金は黒、しかも詳細を公表する習慣はない。
歴代の王は公表していなかったため、カナトも特に公表していないのだ。
別に増税するわけではないし、全く問題なし。
「税収で何とかなるだろ。備品なんかは長期返済可能で利子なしだからな」
向こうも余裕のある商売で同郷の誼という信用もあり、材料費や人件費の目処がついてからの返済となっている。
いや助かった。
同郷バンザイ。
施設自体の赤字よりもそれによる集客、人口の増加による経済の回りの方が重要である。
金は使って使わせて、回らないと発展しないしな。