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シバに味噌汁と肉じゃがの作り方を教えた。
夕食はそれに焼き魚と白米、サラダである。
商人も一緒に食堂で食事することになった。
「イスフェリアではこの調味料、こういう使い方をするのか?」
「そうですね、ほぼ一緒だと思いますよ。・・・ん、出汁は煮干ですか」
味噌汁を食べていた商人が呟く。
「イスフェリアでは何の出汁を?」
「主に昆布と鰹節というものを使っています。味噌汁には使いませんが干しシイタケなども」
聞けば聞くほど和食である。
「主食は米か?」
「イスフェリアは魔法と食の国ですからね。主食は米・麺・パンなど、何でもありますよ。とはいっても一般家庭ではパンが主流ですね」
「ほう・・・米を主食にした場合、良く使われる食材をリストアップしてくれ。その中でガデスにないものを仕入れたい」
「畏まりました。明日お持ち致します」
後はデザートに果物の盛り合わせと珈琲を飲み、夕食は終了。
カナトは昼間しなかった書類仕事を片付ける。
商人はそのまま大人しく宛がった部屋に入っていった。
◇
翌朝。
リストを渡され、目を通す。
米によく合うおかずの料理名、その横に使われる調味料や加工食品が書かれてある。
わかりやすくて良いな。
カナトはリストの中でガデスで見たことのないものに丸を付け、数字も記入していく。
乾物やカレー用のスパイスもある。
「この商品を頼む」
「畏まりました。納期はいかが致しましょう?」
「早ければ早い方が良いが、そちらの都合で構わん」
「畏まりました。・・・陛下、実はお願いがあるのですが・・・」
「何だ?」
「菓子を自動で販売する装置を、城下町の広場に置かせて頂きたいのです」
「自動で販売する装置?」
「はい。魔道具の一種でして、お金を入れると菓子が出てきます。現在四カ国に設置しておりまして、この度私がガデスに参りましたのは、そのことがあってなのです」
「なるほどな。俺はかまわんが、商法には詳しくない。その辺りは宰相と話すが良い」
「ありがとうございます」
要するに自動販売機である。
ますます元の世界の人間のようだ。
名前も外見も日本人のようだし。
「・・・日本、という言葉を聞いたことが?」
「日本!?」
素っ頓狂な声をあ上げ、商人が立ち上がった。
やはりか。
「失礼しました・・・。もしや陛下も?いや・・・転生、ですか」
「やはりか」
「私は転生ではなく、召喚されまして。10年以上前に召喚されて、一旦日本に戻って、またこちらに。数年に1度なら往復出来るので」
「そんなことが可能なのか?」
「はい。ただ、私しか通れない魔方陣なので・・・」
「いや戻りたいわけじゃない。元の世界では死んでるんだし戻れもしないがな」
別に元の世界に未練はない。
家族もなく、恋人もなく。
「あぁ、転生ですもんね。昨日言ったリィリィシュカ妃殿下も転生組なんですよ」
「やはりか。プ○とかステ○ッチとか、どう考えてもな」
「まぁそうですよね」
「それで、翌日にいきなり商品を取り寄せられたのは?」
「転移の魔方陣もありますけど・・・私が昨日使ったのは、所謂ルーラと言いますか」
「ルーラ?ドラ○エのか?」
「はい。1度行ったことのある場所なら転移出来ます。ただものすごく魔力を使うので普通の魔法使いだと厳しいですね」
「なるほどな・・・じゃあ俺も使えるな」
商人の魔力は今まで見た人間の誰よりも多い。
カナトよりも少し少ないくらいである。
「そうですね。陛下ほど魔力があれば可能でしょう」
「後は何か面白いものあるか?」
「私の専門は食関係なので・・・あぁ、たこ焼き・お好み焼き・ラーメン辺りは再現してますよ」
「お、その辺りも入れてくれ」
「畏まりました。あとはシュカさんに聞けば向こうの衣類とか生活用品とか色々ありますが」
「それも頼みたいところだが・・・じーさんに商人の手配を頼んでるからな。またの機会に頼む」
「畏まりました」
「イチイ・ヒツジだったか?」
「はい。日辻櫟と言います」
「俺は一之瀬奏人。今はカナト・シューベルトだがな。通算すると俺の方が年上だが、外見上は逆だ。タメ口で良いし、呼び捨てで良い」
「しかし・・・他国の王様を呼び捨てとはいかがなものかと」
「俺が良いと言っている、構わん」
「・・・了解。よろしく、カナト」
「あぁ、よろしくな、イチイ」
同郷の人間に出会うとは思わなかった。
しかしもう一人いるとなると、探せばもっと出て来るのではないだろうか。
◇◇
午後は大浴場造りに専念。
イチイにはシバに料理を教えてもらうことにした。
自販機の設置やガデスにも支店を出すための下調べなどもあり、しばらく滞在するようだ。
後宮の1階をイチイの部屋にし、転移の魔法陣も設置、流通経路を確保した。
これで醤油・味噌・ソース類もすぐに手に入る。
このままガデスに引き込みたいところだが、難しそうだ。
ガデスよりイスフェリアの方が遙かに平和なので、引きこまない方が良いことはわかっている。
どちらにせよイチイ程魔力があれば、負けることはまずないが。
輸入ばかりでは困るので、輸出も行うことにした。
手始めにガデスの名産であるワインと珈琲豆を4カ国で販売するのである。
元々ガデス産のワインは、貴族の間で好まれているらしい。
売れ行きが良ければ徐々に商品を増やしていく算段だ。
売上が伸びれば、労働者も増やせる。
2回の納税もこなしたし、そろそろ国の為になることをしようと思っていたので丁度良かった。
今日の夕食も和食だろうから、楽しみである。
カナトは夕食を楽しみに、労働に励んだ。
因みに夕食は手巻き寿司がメインだった。旨かった。