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俺、カナト・シューベルトには、前世と前々世の記憶がある。
カナト・シューベルトの人格形成は、前々世の記憶がベースになっていると自己分析する。
最古の記憶だ、当たり前と言える。
前々世、俺は地球の日本という国に生まれ、4歳まではきっと、ごく普通に生活していたはずだ。
4歳の時、父親が母親を刺し殺した。
それから俺の生活は一変。
父親は人殺しだと、いじめられっこ人生を歩む。
いじめられっこは大人になると力を誇示する職業を選ぶという。
刑務官だったり、警察官だったり。
俺はそれを知り、敢えて弁護士を選んだ。
いじめられっこなりに、力を誇示してやろうと。
悪徳弁護士にでもなってやろうと。
悪徳弁護士と呼ばれる前に、被弁護人を庇って刺殺されてしまったのだが。
前世では、宗教の国に生まれた。
2人以上子どもが出来ると、1人を10歳になった年に生贄として神に捧げる。
そんな馬鹿げた宗教の蔓延する国家。
俺はその国の、貧しい一般家庭の双子の片割れとして生まれた。
双子ということは、10歳になったとき、どちらかが生贄にされるのだ。
嫌だった。
死ぬことも、失うことも。
だから10歳になる前に2人で逃げようと約束した。
力をつけるため、剣を学び、魔法を学び、モンスターを狩り金を貯めた。
だが、子供のすることだ、親にはバレバレだったらしい。
逃げることは敵わず、俺は生贄にされた。
双子の妹は、好色貴族の後妻に迎えられるのだと。
俺は生贄に。
妹は売られた。
生贄は神殿に集められ、大きな魔方陣の上で生きたまま捌かれていく。
呻き声、泣き声、啼き声、血の匂い、吐瀉物や糞尿の匂い、とにかく悲惨だ。
捌くのは神官たち。喜色を浮かべた者もいる。狂っている。
「ママ、パパ・・・」
すすり泣く子供たち。
その親に売られたのに、親の名を呼ぶのか。
隣にいた少女の頭を撫でてやる。
「ありがと・・・」
消え入りそうな声だった。
自分たちの番が来るまで、色々な話をした。
気を紛らわせようとしたのだ。
自分の犠牲で兄弟たちを守れる。
神様の力の一部になって、家族を友達を助けられるんだよ、と。
嘘ばっかりだ。
俺はそんなこと微塵も思っちゃいなかった。
だけどそうでも言わないと、生贄の子供たちは無駄死にじゃないか。
俺の犠牲で妹は助かる。
それだけが救いだ。
生きたまま捌かれるのは、言葉に出来ないほどの衝撃。
その記憶が残ったままの今、俺はどんな拷問にも耐えられるんじゃないかと思う。
そして、現世。
忌わしき宗教の国に生まれ落ちた。
だがしかし、記憶が欠落している。
名前も、生家も、家族も。
前世の記憶も前々世の記憶もあるというのに、現世の、今までの記憶がないのだ。
覚えていることはある。
この力と、力の遣い方だ。