15
ソレに気付いたのは、サイが出発して7日後のことだった。
カナトは些か乱暴に執務室の扉を開けた。
執務室にはヲウルとマオの2人。
「おい、マオ・・・」
「何ですかー?カナト様?」
マオがもぐもぐと口を動かしながら答える。
「後宮は姫が5人で侍女も5人だったな?」
「そうですよぅ」
「・・・・・じーさん、後宮へ行く。ついて来い」
「・・・そういう趣味はないんだが」
「いいから行くぞ」
カナトはヲウルとマオを連れて後宮へと急ぐ。
「ここは誰の部屋だ?」
「ローレル様のお部屋なのです」
「・・・知らん。どこの国だ?」
「ツゴですよ、ツゴのお姫様。えーと、一番最初に来た御姫様!」
「あぁ・・・」
藍色の髪をした姫か。
間者でも連れ込んでいるのか?
生体反応が一つ多いのだ。
ノックもせず扉を開ける。
「きゃぁ!」
「ひっ!」
悲鳴は二つ。
椅子に腰かけるローレルと、髪を結い直している侍女の姿が目に入る。
可笑しいな・・・。
「何をしてるのですか!いくら王とて婦人の寝室にノックもなしで・・・!」
「じーさん血圧上がるぞ。・・・おかしいな、誰もいないのか?」
「何を・・・いるではありませんか、姫と侍女が!」
「そうではない」
悲鳴を上げた2人、ローレルと侍女を見る。
震えながらカナトの言動を窺っている。
「お前ら2人か?」
「そ、そうでございますが・・・」
「おかしいな・・・確かにもう一体、生体反応があったんだが」
「・・・?」
「男でも連れ込んでいるのかと」
正しくは間者を。
「姫様になんと無礼な!」
侍女が真っ赤になって叫ぶ。
「あぁ、いた」
「え・・・?」
侍女が訝しげにカナトを見る。
カナトはそんなことお構いなしという風にローレルに近付く。
「腹の中か。父親は?」
「・・・・!!」
ローレルが驚愕に目を見開き、やがて涙をこぼし始める。
侍女はあたふたと、それを慰めにかかる。
カナトは眉を顰めた。
「面倒な」
答えないなら読むだけだ。
「ふん、父王か。ツゴでは近親相姦はありなのか?」
問いには答えずローレルは泣くばかり。
「じーさん、あとは頼んだ」
「なんですと!?この場面を?勘弁してください!!」
「じゃ!」
面倒なことはスルーに限る。
◇
「王よ。押しつけやがりましたローレル姫のことでご報告が」
「はっはっは、申してみよ」
「順調にいけばあと8ヶ月で生まれるそうです。父王もそれを知っていると」
「厄介払いか」
「そうでしょうな。御子が生まれれば早産だがカナト様の子、と言い張るつもりだったようです。まさか手を出されないなど思わなかったでしょうし」
「ふ~ん・・・それでどうするって?」
「どうするも何も・・・」
この世界に中絶といった技術はなく、子が出来れば生むしかない。
それが例え誰の子でも、どんな境遇でもだ。
どうしても生みたくなければ母体もろとも、ということになる。
「ツゴの王はあれか、裏からガデスを手に入れようとしてるのか?」
「おそらくは。姫の御子が成長し、跡を継ぐのを待つ、もしくは暗殺して跡を継がせるか・・・姫を殺しでもしない限りは真っ向から戦争を仕掛けるようなことは致しますまい」
「では放置で」
「は?」
「当たり前だが王位はやらん。俺は姫と婚姻関係を結んでおらんし、ヤってもない。もちろん養子にもしない。が、ここで産めば良い」
「・・・・・はぁ」
「問題なかろう。戦争だろうが暗殺だろうが俺は死なん」
「まぁ、そうでしょうとも。ナカが産婆が出来ると申してました。手配いたしましょう」
「頼む」
◇◇
さて、現在カナトはローレルの元へ来ている。
「おい、ローレルとか言ったな」
「・・・はい」
「男か女か、どっちだ」
「え・・・?」
「腹の子だ」
「まだ、わかりませんが・・・」
「そうか。生むのは構わん。ここで産め。しかし父王には何という気だ?」
「正直に、ばれたことを伝えます・・・」
「そうするとどうなる?」
「切り捨てられる、だけかと・・・」
「ふぅん。禁忌を侵し自分の娘を抱くくらいなんだ、もっと愛情深いかと思ったんだがな」
ローレルはゆるゆると首を振った。
「・・・父王は、そんな御人ではございません。御子が出来、邪魔になったからこそガデスに送られてきたのです。私は、捨てられたのです・・・」
「まぁ捨てられたなら拾ってやるさ。王妃ではないがな」
「何を・・・お考えで・・・」
恐怖を宿した瞳で、カナトを見上げる。
何というか嗜虐心を刺激されるな。
「さあな」
カナトはにやりと笑った。
ローレルの部屋を出、向かう先はひとつ。
「カナト様、どちらへ?」
「ちょっとベビー服とか買って来る」
8ヶ月先である、まだ早い。