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「来たか」
今城内に、カナト以外の人間は存在しない。
城下町の民もすべて、大神殿に避難している。
その上で大神殿には防御魔法、守護魔法が何重にも掛けられている。
たかが50人しかいない賊に敗れる代物ではない。
カナトは王座で賊の襲来を待っている。
今、城門。
辺りを警戒しながら城へ侵入する場面だ。
貴族は前方、しかし先頭ではない位置にいるようだ。
罠は解除してある。解除しないと此処に辿り着けないことが安易に予想されたためだ。
最初は後ろから1人ずつ落とし穴に落としていこうかと思ったが、後の掃除が面倒なので止めた。
「あと少し」
王座の間に漸く貴族たちがやって来た。
「イラッシャイ」
笑いながら言ってやると、顔を青くしながら叫び出した。
うん、聞き取れない。
取り敢えず。
「反逆者には死を。ソイツに脅されて参加している者は助けてやる。両端によけておけ」
ガタイの良いお父さんたちが混ざっているのだ。
おそらく平民で、強制的に参加させられている。
しかし誰1人除けやしない。
面倒くせぇな。
手っ取り早く心を読んで不本意な参加者共を昏倒させる。
それで半分。
残りは貴族と手柄が欲しいヤツら。
そういう人間を殺すのに躊躇はしない。
「さて・・・お前の領地はコスタ村も含まれるな。疫病の正体とは何だ?」
「知らん!!」
・・・うん、本当に知らないな。
この領主は5年前に父親に代わり領主になったようだ。
「では死ね」
かまいたちを放ち、立っている人間の首を刎ね落としていく。
叫ぶ間もない。
血飛沫を撒き散らし崩れ落ちていく。
「呆気ないな」
要するに、神官を大量虐殺し大神官を脅して王になったやつの言うことなんか聞けるか税金何か払うかバカヤロウっていうかお前殺して俺が王になってやるってところだったらしい。
まぁ王と言わずとも爵位が上がるだろうっていう。
逃走経路も何も用意されておらず、もし大神官に咎められたら隣国に亡命する予定だったようだ。
阿呆すぎる。
魔法で死体を風化させ、装備していた武器防具類は一か所に集めておく。
避難命令は解除した。
◇
西の領地は領主が死んだことで、取り敢えず王直轄の地とする。
神殿に保護されている2人は、大神殿に移動させることにした。
アイツらも、勤務地と近い方が安心だろう。
移動は既に大神官に手配させた。
丁重に扱わない場合は罰があると言っているのでその辺りは安心だ。
昏倒させた人間たちは領地に帰した。
家も家族も仕事もある。拘束しても反発心が生まれるだけだ。
ついでに西の領民に領主死んで王の直轄地になりましたって伝えられるしな。
西の多くは農地である。
数少ない米を育てるように指示した。
領地内で当番を決めさせ、収穫されたものはすべて城へ納めさせる。
その変わり納税は年に一回だし、他の税は一切取らない。
どちらからしてもオイシイ話と言える。
管理が面倒臭いのが本音だ。
モンスターの発生や災害だとかのトラブルは、城へ遣いをよこすように言ってある。
◇◇
他国からの使者が来たのは、その10日後だった。
姫とその侍女を連れて騎士が数人やって来た。
ヲウルの話では、要するに人質だと。
姫を差し出します、敵にはなりません宣言。
気に入らない。
初めて見る藍の髪。
瞳は鳶色。
造形は整い、女らしい肉体。
姫自体は結構好みなんだが。
俯いて震えている姫を見て、カナトは思った。
まぁ手を出す気はないが。
「ナカ、後宮に案内を」
付き返しても姫が罰を受ける可能性が高い。
それに刃向かってくるわけでないのなら、隣国相手に戦争する気もない。
あの貴族と懇意にしていたというから、トバッチリを食らうかもしれないと危惧したのだろう。
これを皮切りに何故か他の国からも次々と姫が送られてきた。
何これ面倒臭い。
取り敢えずすべて後宮に突っ込んでおく。
それぞれ侍女は連れて来ているので、掃除や洗濯・買い出しにメイドを貸し出し、食事は各部屋に届けさせる。
姫たちはカナトを恐れ、後宮から出てくることはない。
カナトが姫を見たのは最初の謁見のみで、あとは放置。
「どうせなら騎士が欲しかったな」
騎士団の人数はまだまだ少ない。募集はしているが集まることもなく日々は過ぎる。
「もうすぐ納税だし、貰えるかもしれませんよ?」
「そうだったな」
前回の納税時、人手不足を嘆いてみたのでもしかするともしかするかもしれない。
騎士も侍女もメイドも料理人も、まだまだ欲しいところだ。
足りているのは王だけである。
城付きの神官や薬師も欲しい。
ガデスに医者という職業はなく、近いものは神官と薬師である。
大神殿からひっぱるのもありなのだがそうでなくても人手不足、大神官が胃をやられそうなのでやめておいてやろう。
「楽しみだなぁ、納税」
今回の貴族の件で、またもや献上品が大量にあるだろうと、カナトはそれも楽しみにしているのだった。