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「おはようございま、ああああああああああ」
「・・・うるさい」
「だ、だってぇ!」
折角気持良く寝てたのに、サイの煩い声で目が覚めた。
カナトの寝室で、カナトは半裸。ナカは全裸。しかし裸体はシーツで隠れている。
「何回目だよ、慣れろよ」
「ううううう」
「これだから童○は」
「あああああ」
半泣きだったサイはとうとう泣き出してしまった。
打たれ弱い。
「サイちゃん、うるさいー・・・」
ナカはシーツから顔半分を出し、じと目で睨む。
「すすすすいません」
「はぁ・・・すぐ行く。先に行け」
「ははははいぃぃぃ!」
ドモリ過ぎだろ。
「んー・・・カナトさまぁ・・・」
「はいはい」
カナトはナカに口づけてシーツに身を落とす。
どうもナカは寝起きの・・がお好きらしい。
◇
「遅かったですな」
「すまんな、励んでた」
ヲウルの小言にさらりと返す。
「はげっ・・・!」
「ハゲ?ヲウルが?」
「違うわっっ!子供の前で何たることを!!」
「子供って・・・もう14だろうが。普通だろ」
14といえば早ければ結婚する人もいるというのに。
ナカは再び寝入ってしまったので、4人で朝食を食べる。
スクランブルエッグにサラダ、スープとパン、フルーツといった貴族が食べる一般的な朝食メニュー。
貧しいとスープとパンだけになる。
カナトは朝はあまり入らないので、カナトの前には珈琲とフルーツだけである。
育ち盛りの3人はパンをおかわりまでするのだが。
「ゴホン、それはそうと・・・もう一件の貴族から返事が参りません。調査を行いましょう」
「調査?」
「えぇ、逃亡なのか謀反なのかと言ったところですね。遅延の願出も出さないのはおかしいですから」
「ふぅん」
「サイに様子を見て来てもらいましょう。逃亡ならギルドに捜索願を出します」
「その後は?」
「領主は新しく据えますが、見つかった貴族には罰金なり罰則なり何らかの処置がされます。一先ずサイの帰りを待つことになりますね」
「わかった」
「わー!何か一気に仕事っぽくなって来た気がする!」
勉強漬けの日々から解放されたのが嬉しいようだ。
「危ないと思ったらすぐ帰って来るんだぞ」
「はーい!」
◇◇
カナトはサイを見送った後、図書室でドラゴンの生態の本、基本の魔法書を数冊を選んだ。
ドラゴンの生態の本はアズマに、基本の魔法書はナカに渡した。
ナカには微弱ながら魔力が感じられるので、其れを伸ばそうと考えている。
この世界では、魔力スポットや魔石で魔力を増幅することが出来る。
これを利用してナカの魔力を上げる。
力が弱い分、魔法で補わせようという考えだ。
一応魔法の掛かった短剣は所持させているが、護身になるかならないか微妙なラインなのである。
宝物庫から探し出した魔石を、執務室へ運ぶ。
持ち運びの出来る大きさではないので、一番長く居る場所に置いておく。
ついでにサイも魔力目覚めれば儲けものだ。
ついでのついでにヲウルの魔力も上がると助かる。
王宮は無駄な調度品は消えすっかり簡素になり、カナトにとっては過ごしやすい空間だ。
宝物庫も金庫も中身はまだいっぱい詰まっている。
勉強も終わったし、使用人の募集はかけている。
三大欲求も問題なく解消されている。
妹のことと、未納税の貴族はあるが、軒並み順調。
やることと言えばシバとアズマの訓練くらいだ。
つまりは、暇、である。
娯楽の少ないこの世界でどうやって時間を使うべきか。
図書室の本は粗方読んだ。
大神殿にある本も読破済み。
「そうだな・・・ギルドにでも行って見るか。スカウト、スカウト」
また騒ぎになっても困るので、変装して行こう。
魔法を使い、黒髪は金髪に。灰色の目は碧に。
ついでに身長も10センチほど伸ばし、鬚も生やす。
オプションで皺もつけ、うん、40手前くらいに見えそうだ。
宝物庫から適当な鎧を引っ張り出し、着こむ。
騎士引退後の冒険者初心者の出来上がり。
ヲウルに見つかる前にこっそり出掛けるとしよう。