第四十八話 安分守己
城跡は異様なほど静まり返っていた。雄大な石垣がそびえ、その傍らには小さな祠がひっそりと佇んでいる。
――ここに、破壊神がいる。
「……人間か。興が乗らんな。往時は、殺りがいのある者もいたが」
声に振り向くと、茶髪の男が一人立っていた。――本の挿絵で見た姿。間違いない。破壊神ペルデレだ。
あまりの威圧感に、私は唾を飲み込むことしかできなかった。
「……何だ?」
「……力を求めに来た」
恐る恐る、そう答える。
「……そうか。では、力をつかせてやる」
その瞬間、大地が隆起した。轟音と共に、城跡一帯の地面が波のようにせり上がる。次の瞬間、隆起した大地が内側から砕け散った。
無数の岩塊が宙を舞い、私に降り注ぐ。私は咄嗟に拳を握り締め、岩石を砕いた。――痛い。手から血が滴る。とても、全ては砕ききれない。
――死ぬ。
そう確信した瞬間。
「……っ!」
横から衝撃が走った。体が弾かれ、地面に転がった。視界の端で、少女が両腕を広げて立っていた。次の瞬間、岩石が少女に降り注いだ。衝撃が地を揺らし、轟音が遅れて耳を打った。
「俺に似た力を持つのか。……お前の望む通り、力を譲渡してやろう」
その声が響いた瞬間、岩石が再び私へと降り注いだ。
血の味がする。私は足を引きずりながら、どうにか起き上がった。……やはり死なない。私の魂には破壊神の魔力が含まれている。それが微弱に私の体を再生させるのだ。
辺りを見渡す。地面は抉れ、瓦礫が散乱している。そして遠くには、たくさんの死体が転がっていた。
「……ルイーナ、どこ?」
私は涙を浮かべながら、必死に瓦礫を退かしていく。
「……嘘」
そこにいたのは、体が膨れ上がった死体だった。
――ルイーナだった。
「嘘……嘘だ、嘘、嘘……!」
私はその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。
「お前、まだ生きていたのか」
振り返ると、そこに破壊神ペルデレが立っていた。
「……ルイーナは!?」
私は声を荒げた。
「そこの人間のことか?」
ペルデレは、傍らの死体を指した。
「人間を眷族にしたことはない。それは人間の肉体が負荷に耐えられんからだ。その人間は耐えられなかったようだな」
あまりにも無機質な言葉だった。
「……よくも」
私は、ルイーナの姿へと変わった。私達の一族の精霊は、人の姿に変身することができる。姿や声、その力すらも――その上、魔力も消費しない。
拳を振り上げる。だが。
「失せろ」
その一言で、体が勝手に動き出した。意思とは関係なく、後ろへと歩き出す。
「……クソッ……!」
抗おうとした、その瞬間、体から血が噴き出した。私はそのまま、地面へと崩れ落ちた。そこで、意識は遠のいていった。




