第四十七話 誰かの記憶
私は《神の伝承》を思い返す。この国に残る、最後の神。「破壊神ペルデレ」破壊を司り、絶対的な力を持つ災厄の存在。
その神は、《駝荊毀壊城跡》に鎮座しているらしい。私は駝荊毀壊城跡に向かうことにした。
駝荊毀壊城跡へ向かう途中、一人の幼い少女が立っていた。
「あの、この先に行くつもりですか?」
「……そうだけど。えっと、親は?」
「私は人間ではありません。精霊です」
「……精霊?」
よく見ると、その少女の耳はわずかに尖っていた。
「この先には行かないでください」
「どうして?」
「私が見えているということは、ある程度の魔力があるのでしょう?……彼奴に殺されてしまいます」
「それって、破壊神のこと?」
「そうです。……だから、早く帰ってください」
少女はそう言うと、私の背中を押した。
「ちょっと……」
抵抗した拍子に、私は少女を軽く押してしまった。
少女はよろめき、そのまま地面に尻もちをつく。
「うっ……うわぁん」
突然、大きな声で泣き出した。
「……ご、ごめん!大丈夫?」
私は慌てて手を差し出し、少女を起こした。
「私は……破壊神の眷族なんです」
少女は小さく呟いた。
「眷族……使い魔とかのこと?」
「少し違います。どちらも従者ですが、眷族は血縁関係にあります」
「家族なの?」
「……違う」
少女は首を振った。
「血と魂を与えられると、勝手に眷族化されるんです」
「眷族化って……」
「使い魔と違って、神にしかできません。それに……絶対に逆らえないんです」
少女は目を伏せた。
「血や魂が濃いほど、自我も薄れて……ただの傀儡になります」
「それ、神にとってメリットはあるの?」
「……ほとんどありません。与える分だけ神の魔力も減りますし」
少し間を置いて、少女はどこか憎らしそうな顔をした。
「まあ、彼奴なら……面白半分でやるんでしょうけど」
「……どうして、眷族にされたの?」
私のその問いに、少女は黙り込んだ。
「ごめん。無理に言わなくていいよ」
しばらくして、少女はぽつりと話し始めた。
「私は……出来損ないの精霊です。魔力も、人間に毛が生えた程度しかなくて……そのせいで、母にも捨てられました。そんな時に、たまたま破壊神に出会って……気まぐれで眷族にされたんです」
彼女の表情は、とても暗かった。
「……それからずっと、ここで来る人を追い返しています。殺させないために」
少女は静かに言った。
「……優しいんだね」
私がそう言うと、少女は顔を赤くした。
「そんなこと……ないです。止められなかった人も、たくさんいますから」
少女はそう言って、視線を落とした。
しばらく沈黙が流れる。
私はそのまま引き返そうとした――その時、服を引っ張られた。
「あの、その……」
「どうしたの?」
少女は少し迷ってから、手を離した。
「……ごめんなさい。ちょっと、寂しくて」
私は少しだけ笑った。
「じゃあ、友達になる?」
「えっ……」
「私も、友達できたことなくて。だから……これが初めての友達」
そう言って、私は手を差し出した。
少女は戸惑いながらも、その手を取る。
「……じゃあ、友達」
少女はそう言って、少しだけ嬉しそうに笑った。
「名前、なんて言うの?」
私は少女にそう問いかけた。
「名前……別にない。でも、母からはフェッチって呼ばれてた」
「じゃあ、フェッチでいいのかな?」
「……やめて。その名前は嫌」
少女は少しだけ顔を曇らせた。
「えっと……じゃあ」
「好きに呼んで。それより、あなたの名前は?」
少女は遮るようにそう言った。
「私はルイーナ」
「ルイーナは、どうしてあそこに行こうとしたの?」
少女は静かに問いかけてきた。
私は、悪魔にすべて奪われたこと、そして復讐するために力を求めていることを話した。
「……そうなんだ。復讐か」
少女は小さく呟いた。
「そんなの、必要ないと思うよ」
「……えっ」
思わず言葉が詰まる。
「確かに、した方がいい場合もあると思う。でも、今のルイーナは違う気がする」
「……どうして?」
「わざわざ、危険なことをする必要はないよ。命をかける復讐なんて……意味ない」
「……あなたに何が分かるの?」
自分でも驚くほど、強い声が出た。
「えっ……ごめん」
少女は気まずそうに視線を逸らした。
母を亡くしてからずっと、私は組織に利用され続けてきた。普通の生活ができなかったのは、全部あの悪魔のせいだ。――あいつに復讐するまで、私は止まらない。
「……行くから」
私はそう言い、駝荊毀壊城跡へと歩き出した。
「ごめんなさい……人の事情に口を挟んで……だからお願い、行かないで」
少女は涙を浮かべながら、必死に言った。
「……さよなら」
振り返らずに、私はそう言い捨てた。
そして、そのまま――駝荊毀壊城跡へ向かった。
「ごめんなさい。私が余計なことを言ったせいで……また、救えなかった」
少女はその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。




