第四十六話 宣戦布告
次の瞬間、視界が切り替わった。木漏れ日や苔むした岩、清らかな水辺が広がる森だった。
「ここどこ?」
モラが困惑したように周囲を見渡している。
「あいつが我らを逃がしたのだ。……突然の出来事であった為、あまり位置を指定できなかったのだろう」
足元を見ると、スパティアの手足が地面に転がっていた。
「うっ……」
モラは具合が悪そうにしている。
「あの男、時間遡行を起こした奴だ」
「……あの、スパティアさんは」
モラは恐る恐るネブラに問いかけた。
「見て分かるだろ……もう生きていない」
「……あの女神様に会って、治してくれないか交渉できないかな?」
モラは目を伏せながらそう言った。
「女神からすれば、死んだことは好都合だし。厳しいかもね」
「……このレベルの損傷は、治せないと思うが……まあ、動くべきだな。行くぞ」
ネブラは淡々とそう言った。
「……あそこ、行きたくないな」
私は小さくそう呟いた。
私達は、スパティアの手足を抱え、御稜威山へ向かって飛び立った。
私達は、女神――パナケイアに破壊神のことを伝え、スパティアを直してくれないかと交渉を持ちかけた。
「治す訳にはいかないな。我々の目的は危険因子の排除だ」
パナケイアはそう言い放った。
「……そうですか。治せないんですね」
モラはそう言った。
「……何だ?」
パナケイアはモラを見た。
「癒しと治療全般を司る天才的な存在が、この程度も治せないんですね!」
モラは笑いながらそう言った。
「ちょっと、モラ」
私が止めようとすると、パナケイアが口を開いた。
「……治せるに決まっているだろう」
その瞬間、私達が抱えていた手足が浮かび上がり、パナケイアの元へと集まった。
「……ありがとうございます。殺さないでくださいね」
モラは軽く頭を下げた。
「どのくらいで治せるのだ?」
ネブラがパナケイアに問いかけた。
「二ヶ月もあれば完全に治せる」
パナケイアはそう言い放った。
この状態を二ヶ月程度で全て治せるのは、やはり凄まじい力を持つ神だと改めて感じさせられた。
「あの……パナケイア様、破壊神を倒すのに協力してくれませんか?」
モラはパナケイアにそう頼んだ。
「断る。あの神に関わるほど、命知らずではない」
パナケイアは、いつになく真剣な顔でそう言った。
私達は山から降りながら話していた。
「戦うにしても二ヶ月後だな」
「そうだね」
その瞬間、周囲の建物が一瞬にして崩壊した。人々の悲鳴が響き、辺りには血塗れた人々が折り重なるように倒れていた。
「何……?」
土煙が晴れ、前が見えるようになると、私達の目の前にあの――茶髪の男が現れていた。
「破壊神……」
モラは震えた声でそう呟いた。
「衰微の悪魔は子までもか」
ペルデレは嘲るように言った。
「戦うつもりか?」
ネブラがペルデレに問いかけた。
ペルデレは黙ったまま笑みを浮かべた。
「……二ヶ月待ってよ」
モラは震えながらそう言った。
「何故だ?」
モラが答えようとしたところで、私が口を開いた。
「戦える奴が増えるからだ」
「……良いだろう。今から一ヶ月だけ待ってやる。時が満ちたら、駝荊毀壊城跡に来い」
ペルデレはそう言うと、ゆっくりと私を見た。
「未だに、こんな低俗な事をしているのか?」
ペルデレはそう言うと、有無を言わせず、その場から姿を消した。
私達はその場に立ち尽くした。
――私達は神に、宣戦布告されたのだ。
「……厄介な事になったな」
ネブラは小さく呟いた。
「というか、二ヶ月待ってよ!せっかちじゃん」
モラは頬を膨らませて言った。
「今は、協力者を増やすことが大事じゃない?」
私はネブラにそう言った。
「ああ。有力な神に協力を要請するとしよう」
「……疲れた」
モラがぽつりと呟いた。
「まさかの全滅だよ」
「……全て断られたな」
ネブラは淡々とそう言った。
神々は破壊神を強く恐れているようだった。加えて現在、神殺しを禁じる天啓を破壊神が受けている為、神々にとって戦うメリットがないらしい。
私達は一ヶ月間、悪魔の城で過ごしながら、戦いに備えて訓練を重ねることにした。
「……今日で13日だね」
モラがそう呟いた。
「スパティアの様子は?」
私はネブラに問いかけた。
「頭部から肩にかけては回復していた。……一ヶ月では上半身までだろうな」
ネブラは淡々と答えた。
破壊神ペルデレ。38年前、私が力を求めて会いに行こうとした存在。だが、そこで記憶は途絶えている。まだ、思い出していない記憶があるのだ。
私は、宇宙での会話を思い出した。
――やはり君、“人間”じゃなかったんだね
人間は宇宙空間で生きることができない。だとしたら、私は魔なのか?
そんなことを考えた瞬間、頭が砕かれるような激痛が走った。思考が一気にかき乱され、視界が歪む。
意識が遠のいていく。私は、そのまま気を失った。




