表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Frange ruinam   作者: S
スパティア編
44/48

第四十四話 愛情

600年前――人間界は、陰陽師が全盛期を迎えていた。陰陽師とは、生まれつき魔力の代わりに呪力を持ち、呪術を用いて災いを祓う人間のことだ。


我は、いつも通り敵対する陰陽師を皆殺しにしていた。だがある日、一人の女の姿が窓越しに見えた。


目撃者は、いずれ厄介なことになる。そう思い、手にかけようとした。だが――


「悪魔さんですか?」


女は、目を輝かせてそう言った。我が言えたことではないが、変な女だと思ったよ。その女は、どうやら病床に伏しているようだった。


今まで、我を見て恐れ、憎み、あるいは悲しむ者はいた。だが、あの女は違った。理解できない感情を我に向けていた。それが不思議だった。


また、あの家の前で殺しをしていると、女と目が合った。女はこちらを手招いていた。我は気まぐれに、家に入った。


家の中には生活最低限のものしかなく、埃が立ち、カビが生えた、最悪な環境だった。


その女は、家族や村の人々に見捨てられ、一人でここに住んでいるらしい。貨幣も尽きかけ、不治の病に侵され、人生を諦めていたそうだ。


何度か、その女と会話をした。悪魔や魔、神についての質問に答えた。


「妾はアモーレです。貴方は?」


「……スパティア」


「そう。素敵な名前ですね」


会うごとにアモーレは衰弱していった。食事もまともに取れていないのだろう。治すこともできた。だが――何故か我は、その女と契約を交わすことにした。


本来、代償など要らなかった。だが契約である以上、望みに見合う代償が必要だった。契約内容は――望みは病の完治。代償は、人との繋がりの断絶。


アモーレは嬉々としてそれを受け入れた。


そこから、アモーレはみるみる元気になり、喜怒哀楽もはっきりと表れるようになった。……不思議と、安堵を覚えた。


それから我は、毎日アモーレと話すようになった。


「日記、書きません?」


「……何で?」


「思い出になります。書きましょうよ!」


我はアモーレに押され、日記を書くことにした。



「部屋、汚くない?」


「……そうでしょうか?」


「掃除するよ」


「妾がやります。……って、スパティアさん、聞いてますか?」



「代償は、妾にとってはあまり変わりませんでしたが……以前より甚だ楽しいです」


「……そうか」


「あっ、嬉しそうですね」


「……別に」



「殺し、やめませんか?」


「……何で?」


「その人にも、愛する人がいるからです」


「……分かった」


それから十年――ある夜、アモーレの家へ向かう途中、陰陽師と遭遇した。


「人間ごっこは終わりだ。良い夢は見れたか、外道」


アモーレとの約束がある。……人を殺すわけにはいかない。


「……がはっ」


「呪いをかけた。何処へ逃げようとも、この呪いは消えない」


「……お前を殺せば消えるのか?」


その日は、やけに雨が強かった。


「こんな日に何してたんですか?……傷を負っています」


「平気……返り血だから」


「……」


「済まない……約束、守れなかった」


「座りません?」


アモーレは我の手を引き、床に座らせた。


「今日は雨が酷いですね」


「……我は人殺しだ。変わったつもりでも、昔日は消えない」


「……」


「……我を愛する者などいない」


「昔日は消えません。確固に。でも――償うことはできます。……妾と共に」


「……」


「それに、妾はスパティアさんのことを愛しています」


「……アモーレ」


「あっ、もう眠いので寝ますね」


「待って」


「何ですか?」


「……我も、愛している」


アモーレは目を輝かせた。


「スパティアさん……一緒に寝ますか?」


「……御休み」


「もう、意地が悪い人ですね」


我が契約を持ちかけたのは、アモーレと共に生きていたいという想いからだったのかもしれない。――これからも、二人で生きていこう。


だが……幸福な日々は、長くは続かなかった。

ある日――家は静まり返っていた。


「アモーレ……?」


机の上には、一通の書簡。


『汝の情人を拐かした。駝荊毀壊城跡にて待つ。女の首が飛ぶ前に来い』


そこには、かつての繁栄を思わせる石垣があった。だが、異様なほど静かだった。


「アモーレ!」


「喧しい」


そこにいたのは――あの忌々しい神だった。


「初めましてか?俗世に堕ちた悪魔よ」


「……」


「お前は、こうでもしないと現れないからな」


「……アモーレをどうした?」


「そう焦躁るな。ここにいる」


その神の背後には、アモーレが意識を失ったまま横たわっていた。


「安堵しろ。存命だ」


「何故、こんな事をした?」


「さあ――いざ、闘おうではないか」


それからのことは、あまり覚えていない。だが、状況が良くなかったことだけは確かだ。


「……がはっ」


「尫弱たり、下らない」


「お前は……何故、こんなことをする」


「先日、神討ちを抑制する天啓を受けてな」


「……だから、代わりに我を狙ったのか」


「俺には能力がある。俺が所有権を持つ存在を、莫大な魔力で“削除し”、その状態の世界を再構築できる。この手段で、如何しても敵対したい神を屠ってきた」


「……」


「冗長が過ぎたな」


そこから我は、一心不乱に逃げ出した。――それは、醜く愚劣な選択だった。


「アモーレ……待っててくれ」


そう逃げ出した時だった。周りの風景が全て歪んだ。まるで、世界が破壊されるような。そして、遠くからあの神の声が聞こえた。


「我から遁れた事を後悔させてやる」


その言葉が聞こえた時、我は生まれた時から戻っていた。その時には、何の疑問も抱かなかったが――だが、アモーレと初めて会った日、あの日に疑問を抱いた。何か忘れてしまっていると。


空間を使い移動していた時、あの家が何とはなく目に入った。そんな疑問を心に持ちながら、空間を繋げた。


古びた家だった。埃が立ち、カビが生えた、最悪な環境だったよ。だが、人がいなかった。いるべき人が。その時に思い出したんだ。今までの出来事を、全て。


世界が再構築されようとも、きっと魂だけは変わっていなかった。だから、思い出せたのかもしれない。


「ああ、あ……アモーレ」


アモーレは消されたのだ。あの神によって存在ごと。我は助けることが出来なかった。その場を去り、見捨ててしまった。あの時、逃げてしまったからあの神は腹を立て、この行動を起こしたのだ。


あの時、我が死んでいれば――この世界は、アモーレがいない世界にはならなかったかもしれない。


昔日は消えない。アモーレの思い出も記憶も存在も消えたわけではない。だとしたら、あの神を殺すことができれば、アモーレを取り戻すことができるかもしれない。


あの神に勝つにはまず、ハデスを殺し力を得ることから始めるべきだ。


「アモーレがいた世界を取り戻す」


我はそう心に決め、歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ