第四十二話 決着
次の瞬間、視界が切り替わった。目の前に広がっていたのは、果てしない暗闇と、無数に輝く星々。そして、遠くに浮かぶ青い地球。ここは――宇宙空間だ。
「……っ」
宇宙では呼吸ができない。そんな知識だけはあった。私は咄嗟に息を止めた。
周囲を見渡すと、遠くにスパティアがいた。こちらを見ながら、何かを呟いている。
「こんな方法は、取りたくなかったんだけどね」
私は地面を蹴るような感覚で、スパティアへと近づいた。その瞬間――スパティアの目が見開かれた。
「……ははは」
スパティアは小さく笑った。
「やはり君、“人間”じゃなかったんだね」
(……何を言っているんだ、こいつは)
不思議そうにする私をよそに、スパティアはゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「別にそんなことをしなくても、喋れるだろう。そもそも――息を止めたところで、人間は宇宙では生きられない」
「……えっ」
思わず声が漏れた。
――声が出る。苦しさもない。一体どうして?
「魔は、人間と違ってね。宇宙でも生きられるのさ」
スパティアは淡々と言いながら、手をかざした。
空間が、音もなく裂ける。
「連れてきて悪かったけど――冥界に戻るよ。ここじゃ、戦いにくいからね」
次の瞬間、私の足元に裂け目が開いた。
「――っ!」
反応が遅れた。私はそのまま――裂け目の中へと、落ちていった。
次の瞬間、視界が切り替わった。目の前には、殺風景な景色が広がっていた。――戻ってきたのか。
それぞれ離れたところにネブラとモラが倒れている。
「待ってて、事が済んだら必ず助けるから」
私は小さくそう呟くとスパティアに向かって全力で駆け出した。
地面を蹴り、拳に魔力を集中させ、一直線にその胸を狙う。
スパティアは余裕の笑みを浮かべたまま、片手を軽く振った。空間が裂け、無数の黒い岩石が雨のように降り注ぐ。岩石の隙間を縫い、避けきれないものは拳で粉砕しながら突き進んだ。
「君は一体何者なんだ?」
今度は円錐型の穂先を持つ奇妙な槍が四方八方から飛んでくる。
「っ……!」
私は歯を食いしばり、身体を捻りながら槍を拳で弾き、蹴りで叩き落とす。肩や脇腹を掠め、血が飛び散ったが、そのまま距離を詰めた。
スパティアの表情に、初めてわずかな焦りが浮かんだ。
「……一人で我に勝てると思うなよ」
「何言ってるの?私は、最初から三人で戦ってるよ」
私の言葉が終わらないうちに、背後から二つの気配がした。ネブラがハルバードを構え、モラが魔力シールドを展開しながら立ち上がった。
「ルイーナ、今!」
スパティアの目が見開かれる。
「なっ……!?」
ネブラのハルバードがスパティアの左側を、モラの魔力放出が右側を同時に襲う。
スパティアは慌てて空間を裂こうとしたが、モラのシールドが裂け目を強引に塞ぎ、ネブラの刃がその隙を突いてスパティアの肩を深く斬り裂いた。
血が噴き出す。私はその一瞬の隙に、全力で跳躍した。
「終わりだ」
魔力を拳に纏わせ、落下の勢いも加えてスパティアの胸の中心に叩き込む。
鈍い音と共に、スパティアの体が大きく後ろに吹き飛んだ。空間の裂け目が不規則に揺らぎ、次々と閉じていく。スパティアは膝をつき、口から大量の血を吐いた。体がゆっくりと傾き、地面に崩れ落ちた。
ネブラがハルバードを構えたまま近づき、モラが息を荒げながら私の隣に並ぶ。
――終わった……。
「ルイーナ!」
モラが、安堵したようにこちらを見た。
「……うん。スパティアに勝った」
そう言った瞬間、モラの体が崩れるように地面へ倒れた。
「モラ!?」
「傷がかなり深い。早く冥界から出るぞ」
ネブラが淡々と言った。
「でも、どうやって――」
ネブラは倒れているスパティアへ視線を向けた。
「……おい」
ネブラが歩み寄り、スパティアを見下ろした。
「ここから出せ」
「……この状態でか」
スパティアは掠れた声でそう言った。
――まだ意識があるのか。
「さっさとしろ」
数秒の沈黙。
やがて――
「……まあ、いいよ」
次の瞬間、私達の足元の空間が裂けた。私はモラの体を抱き寄せたまま、ネブラと共に、その裂け目の中へと、落ちていった。




