第四十話 常軌
「大層なことを言うね。でも、人数が減って不利になったのは、君達の方じゃないのか」
スパティアの声は、余裕に満ちていた。
次の瞬間、アニムスが無造作に手を振るう。目に見えない斬撃が一直線に走った。私は反射的に身体を捻り、紙一重でそれを躱した。背後で地面が深く抉れた。
――速い。連続で振るわれる腕。そのたびに斬撃が飛ぶ。私は足を止めず、最小限の動きで躱し続けた。
確か、アニムスには魔力を反発させ、霧散させる性質があった。
なら――
「ネブラ!」
私は叫びながら、ネブラの方へ視線を向けた。
「スパティアを足止めして。その間に私がアニムスを殺すから」
ネブラの目が一瞬だけ細まる。
「お前一人で勝てるのか?」
「分からない。でも……スパティアの足止めは、私にはできないから。」
私は息を整え、言葉を続けた。
「でも……任せて欲しい」
「死ぬなよ」
短くそう吐き捨てると、ネブラの姿が消えた。スパティアの視線がそちらへ向いた。
私はアニムス目掛けて地面を蹴った。腕が振るわれ、斬撃が飛ぶ。だが今度は避けない。
半歩踏み込み、内側へ滑り込む。懐に入り、体重を乗せて拳を叩き込んだ。確かな手応えがあった。
アニムスの体が大きく凹む。腕が振り上げられるが、私はその動きに合わせて身体を沈め、腰を回す。
足を払うように低く蹴りを入れた。
バランスが崩れた瞬間、肩をぶつけるように体当たりをし、そのまま地面へ叩きつけた。
アニムスの身体が浮き、背中から落ちる。間髪入れず、私は馬乗りになった。拳を次々と振り下ろした。アニムスが腕を振るうが、私はその腕を掴み、斬撃の軌道を強引に逸らす。
そして、全体重を乗せた拳を――顔面に叩き込んだ。
アニムスはそのまま崩れ落ち、身体から黒い光が引き抜かれるように溢れ出し、霧となって消滅した。
私は息を荒げながら立ち上がり、距離を取った。
……できた。一人で、アニムスを倒せた。少し成長したのかもしれない。……拳を叩きつける感覚、命を奪う行為に、何とも言えない快感を覚えた。
大きく息を吐いたその瞬間。
「終わったか?」
ネブラの声が背後から響いた。振り向くと、ネブラはスパティアと対峙したままだった。だが、その動きは明らかに押されている。ネブラの肩からは血が滴っていた。
「終わったなら、加勢しろ」
「分かってる」
私は即座に地面を蹴り、スパティアへ向かって走った。ネブラの斬撃と同時に、私は横から踏み込む。だが、スパティアは笑みを浮かべた。
「我も、少し本気を出そうかな」
次の瞬間、空間が大きく歪んだ。嫌な感覚が、背筋を走った。
「下がれ!」
ネブラの叫びと同時に、スパティアの周囲に巨大な裂け目が開いた。
その奥に見えたのは――光の線だった。




