崩壊した星
次の瞬間、空間が無数に裂け、そこから黒い岩石が雨のように降り注いだ。
私は即座に地面を蹴り、横へ跳ぶ。同時にモラが魔力シールドを三人の周囲に展開した。轟音が連続して響き、岩石がシールドに当たっては弾かれる。
「多い……!」
モラの額に汗が滲んでいる。シールドを維持するだけで、しんどいのだろう。
ネブラはハルバードを構えたまま、低く呟いた。
「キロプテラ」
黒いコウモリの群れが空間を埋め尽くす。今までのどの戦いよりも密度が高く、数も多い。コウモリはスパティアに迫る。だが、スパティアは小さく笑うと、手をかざした。空間が裂け、コウモリの群れがまるごと別の場所へ吸い込まれた。
「チッ……」
攻撃が当たらない。突破口としてはやはり、前にネブラが言っていた通り、多方向から攻めることだろうか。
「ルイーナ、左!」
モラの叫びに反応し、私は左側から迫る岩を拳で叩き落とした。私は歯を食いしばり、地面を強く蹴った。魔力を拳に集中させ、スパティアの懐へ飛び込む。だが、空間の裂け目に吸い込まれ、空を切る。私は空間からすぐに手を抜いた。
「ルイーナ、下がって!」
モラが叫びながら、シールドから魔力を放出する。
一瞬、スパティアの動きが止まった。その隙にネブラが動いた。
「アルテル・エゴ」
ネブラの姿が二つに分裂した。本体と分身が左右から同時にハルバードを振り下ろす。刃がスパティアの首と胸を同時に狙うが、二つのハルバードが、互いに交差する軌道で別の裂け目へ吸い込まれ、衝突した。刃と刃が激突し、火花が散る。
「無駄だよ」
スパティアは余裕そうに笑った。
だが、ネブラは顔を上げ、低く呟いた。
「ステラ・テネブリス」
その瞬間――風が吹いた。最初は、微風程度だったものが、次の瞬間、立っているのもやっとなほどの暴風へと変わった。
「っ――!」
思わず腕で顔を庇う。視界が揺れ、髪が乱れる。――これはただの風じゃない。吸い込まれている。周囲の淡い光さえ、歪んで見えなくなっている。
「……何なの、これ……」
モラの声が微かに聞こえる。私は必死に目を開けた。スパティアの周囲には、ぽっかりと黒い穴が開いていた。それは、周囲のすべてを引き寄せていた。
「重力か……」
スパティアがそう呟いた瞬間、スパティアの右腕が消えた。血が噴き出す間もなく、吸い込まれた。遅れて、右足も同じように。
「……っ」
スパティアの身体が大きく傾いた。だが、倒れない。残った左足で踏みとどまっている。
「……なるほど、これは厄介だね」
スパティアがそう言った瞬間、左手を振るう。空間が裂け、黒い穴が飲み込まれた。次の瞬間、スパティアの失われた右腕と右足の断面が盛り上がり再生した。
「……うわっ、気持ち悪い」
モラが顔をしかめる。
「行くよ、モラ」
私はそう言うと、スパティアに目掛けて地面を蹴った。空間を裂き、攻撃を逸らされる――それでも構わない。スパティアの周囲で、裂け目が次々と開く。だが――追いついていない。
「チッ……」
さっきの攻撃が、かなり効いている。ほんの僅かだが、裂け目の展開が遅れている。今までとは違う。
こちらが押している。
でも、少し気になったことがあった。なぜハデスがいない?この世界では封印されていないはずだ。冥界は広いから、遠くにいるだけなのだろうか?
そんな考えが頭をよぎる。
「……少し時間がかかり過ぎちゃったかな」
スパティアがぽつりと呟いた。
その瞬間――私の口から血が溢れた。




