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Frange ruinam   作者: S
スパティア編
36/38

滅却の致

私達は、スパティアの棲家へと降り立った。私は慎重に扉へ手をかけ、ゆっくりと押し開けた。中へ一歩、足を踏み入れる。


「……空間の歪みって、ある?」


モラは私にそう問いかけた。崩れた棚の間を進んでいると、壁の一角――何もないはずの場所が、かすかに揺らいでいた。


「……ある」


胸の奥がざわつく。もしかして、最初からあって、私が気づかなかっただけなのか……


指先を、そっと伸ばす。触れた瞬間――空間が、音もなく裂けた。


「……開いた」


モラが小さく呟く。その声には、わずかな恐れが混じっていた。


「……入るよ」


「え、えぇ!?ちょっと待って、怖いって!」


モラの手を掴み、引き寄せる。そのまま、一歩踏み込んだ。次の瞬間――視界が、反転した。中は以前見た時と変わらず、一面に、小さな木製の碑が無数に並んでいる広い部屋だった。


「……なに、これ……」


モラが息を呑む。その時――


「……っ」


モラが突然、声を上げた。震える指で、一つの碑を指し示した。


「……これ……モイラ様の……」


その碑には、運命神モイラと刻まれていた。


「……回収しよう」


私は部屋の隅にあった大きな袋を掴み、碑を持ち上げた。ひやりとした感触が、手に伝わる。


「え、それ……使っていいの?」


モラが不安げに聞く。


「今更でしょ」


私は振り返らずにそう答えた。


「モラも手伝って」


「……うん!」


モラが頷いた。


「頑張るぞ……!」


私達は、碑を次々と袋に入れて回収し始めた。




ネブラとダイモーンは、長い間、木陰に立ち尽くしていた。


「……時間遡行に“似た現象”を可能とする神がいる」


ダイモーンが、静かに口を開いた。

ネブラは視線だけを向けた。


「……その神が、ルイーナの見た男か?」


「ああ、おそらくな」


ダイモーンはわずかに目を細める。


「その神は――自らが“所有したもの”に干渉できる」


「所有……?」


「ああ。物でも、場所でも、あるいは存在そのものでも構わん」


ダイモーンは淡々と続ける。


「そしてそれを――莫大な魔力と引き換えに、“存在ごと消し去る”ことができる」


「……消し去る、だと?」


「ただ消滅させるだけではなく、その存在を無かったことにして、時間をそのままに、世界を再構築することができる」


「……その神の名は?」


ダイモーンが口を開きかけた瞬間、ルイーナとモラが大きな袋を抱えて戻ってきた。




「回収し終わったよ!」


私達は、大きな袋を抱えてダイモーンの元に戻った。

ネブラはこちらに視線を移した。


「……そんな袋、あったか?」


「棲家にあったよ」


私達は、袋を地面に下ろした。


「来い」


ダイモーンがそう言い放った瞬間――周囲に、複数の鬼が静かに現れた。


「これを移譲神の元へ運べ」


ダイモーンが足元の袋を示す。鬼たちは一切の言葉を発さず、ただ従った。次の瞬間、鬼も袋も跡形もなく消えていた。

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