未来
今回短めで申し訳ないです。
「人間界で、神々にネブラを護衛してもらうっていうのはどう?」
私は二人にそう提案すると、ネブラがすぐに眉をひそめた。
「……何故、我が守られねばならん」
「私達がスパティアより弱いからでしょ……」
モラが苦笑いをした。
「いくらスパティアでも、神と正面から戦うのは厳しいと思う」
ネブラはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……もっとも、神々がその要求を呑むとは限らんがな」
「でも、このままだとまた同じ未来になるよ」
私は二人を見て言った。その言葉に、場の空気がわずかに重くなる。モラは少し考え込んでから口を開いた。
「でも、どの神に頼む?モイラ様は無理だし……私が知ってて、今会えるのは鬼神くらいしかいないよ」
モラは困ったようにそう言った。
「確かに……鬼神は、要求を素直に呑むタイプじゃないね」
するとネブラが、静かに口を開いた。
「他の神も知ってはいるが、スパティアに正面から対抗できる神となれば、鬼神はその一柱だな」
そう言うと、ネブラは踵を返し、歩き出した。
「行くぞ」
突然の行動に、モラが目を丸くする。
「えっ……ネブラが……?」
信じられない、という顔でネブラを見る。
「私達の話、ちゃんと聞いてる……」
ネブラは振り返りもせず、呆れたように言った。
「お前は、我を何だと思っている」
そして、小さく溜息をついた。
私達は、鬼神がいる旧糾縄集落跡へ向かった。
私達は、鬼神――ダイモーンに、起こったはずの未来と、スパティアの計画、そして冥界での出来事を話した。聞き終わったダイモーンが鼻で笑った。
「……妄言だな」
「違うよ。本当だよ!」
モラが食い下がる。
「お前には特別な天啓がないだろう。それぐらいしてくれてもいいのではないか?」
ネブラが一歩前に出て、そう言った。ダイモーンの目が、わずかに細められる。
「何故、俺がそんなことをしなければならない」
「そこを何とか、お願いします!」
モラは手を合わせ、そう言った。
「貴様らの妄言に、俺を巻き込むな」
「もう、話が通じないよ……!」
モラは頬を膨らませた。
私は一歩前に出た。
「私は……時間遡行をしました。その先で、魔界と人間界の境界は崩壊しました。人間が滅べば、神もまた消滅します。これは、私達だけの問題ではありません」
私は深く頭を下げた。
「どうか……力を貸してください」
「ルイーナ……」
モラの小さな声が、背後で聞こえる。
やがて――
「時間遡行か……」
ダイモーンが低く呟く。何かを思い出すように、目を細めた。
「……待て。それは――」
ダイモーンは目を見開き、口を閉じた。しばらくの沈黙のあと、ダイモーンは小さく息を吐く。
「……いいだろう。ただし、こちらにも協力してもらう」
「……分かった。感謝する」
ネブラが短く言った。
「そこの人間二人に、仕事をしてもらう」
「何?」
モラが眉をひそめる。
「そこの陰陽師の血の話では、奪われた魂は、悪魔の棲家の中の空間にあったのだろう?」
ゆっくりと言い放つ。
「それを回収してこい」
「でも……前はなかったよね?」
モラが私を見る。
「……今は、開かれていないと思います」
ダイモーンが鼻で笑う。
「見逃していただけの可能性もあるだろう」
そして、一歩踏み出す。
「協力するのだろう?」
その圧に、言葉が詰まる。
「……分かったよ」
モラが息を吐いた。
「行こ、ルイーナ」
そう言って、ネブラの前に手を差し出す。
「鏡、貸して」
「……無くすなよ」
ネブラは静かに鏡を渡した。
モラはそれを受け取り、指先で触れる。次の瞬間、鏡の表面が水面のようにゆらりと波打ち、私達は鏡の中へと吸い込まれた。




