神業
物語が半分を切りました。ここまで読んでくださりありがとうございました。最後まで頑張るので読んでくれると幸いです。次回から新章です。
「また、ネブラ報告に行っちゃったね」
モラは椅子に腰掛けながらそう言った。
「まあ、これで土地神、結構殺しちゃったからね」
私がそう答えると、モラは真剣な顔つきになった。
「あのさ、【72の神殺し】って本、覚えてる?」
「スパティアの棲家にあった本だよね?」
「うん。……私って、体の中に悪魔がいたでしょ? そのせいか、魂の数とかがなんとなく分かるんだよね」
「えっ、アニムスの魂も?」
「うん。でも自信なかったから言えなかったんだ。けど、ネブラに魂の数を聞いたら大体合ってたから……伝えたほうがいいかなって」
「それと、何か関係があるの?」
モラは少し間を置いた。
「間違ってなければ……今まで倒した土地神のアニムスの魂の数、全部合わせて72個なの」
モラがそう言った瞬間、コンコンと扉を叩く音が響いた。
「ネブラかな?」
モラはそう言うと、扉の鍵に手を伸ばした。
「待って」
胸の奥に嫌な予感が走る。私は咄嗟にモラを止めようとした。
だが――鍵はすでに開いていた。
扉の向こうに立っていたのは、スパティアだった。
「やあ、二人共」
「……スパティア」
その瞬間――壁を突き破り、ハルバードが一直線にスパティアへ突き出された。だがスパティアは体を軽く捻るだけでそれを躱す。
「ネブラ!?」
モラが動揺した声を上げた。
「お前……」
ネブラは壁の向こうから姿を現し、スパティアを鋭く睨みつけている。
「おっと、戦いは外でやろうか。ここだと建物が崩れてしまうからさ」
「気にしたことなど一度もないだろう。……まあ、いい」
ネブラは私達を追い払うように手を振った。
私とモラは顔を見合わせ、そのまま二人の後を追った。ネブラはこちらを振り返り、わずかに眉をひそめた。
外へ出た瞬間、風が止まった。
「かかってきなよ」
スパティアがそう言うと、ネブラが最初に動いた。
「キロプテラ」
低く吐き捨てるように呟くと、無数の黒いコウモリが空間を埋め尽くした。今まで見たこともないほどの数だ。
コウモリがスパティアの身体に触れる寸前、空間の裂け目が一瞬だけ開いた。コウモリはその裂け目に飲み込まれ、何事もなかったかのように空間は閉じた。
「……消えた」
モラが震える声で呟く。
「魔の心の入手方法を知っているかい?」
スパティアは笑いながらそう言った。
「研究の結果、魔には心というものが存在しないことが分かった。だが、二つの条件を満たせば、心に似たようなものが生まれる。その一つの条件は神業を成すこと。もう一つは――」
ネブラはハルバードを握り直し、スパティアに目掛けて突進した。刃が空気を切り裂き、スパティアの首を正確に狙う。風圧だけで周囲の地面が抉れるほどの威力だ。
刃はスパティアの首に触れる寸前で突然消えた。空間が裂け、ハルバードの先端が別の場所へ吸い込まれ、柄だけが残る。
「話を聞く気はなさそうだね」
「攻撃ができない……何か策あったりする?」
私はネブラに問いかけた。
「あれは魔力消費が激しい。それに、多方向から攻めれば、対応しきれないはずだ」
ネブラはそう言うと口を開いた。
「アルテル・エゴ」
その言葉と同時に、ネブラの姿が二つに分かれた。――分身。
ネブラの本体が正面から斬りかかる。刃がスパティアの胸元に届く寸前――空間が裂け、刃先が吸い込まれた。分身の攻撃も同時に別の裂け目へ飲み込まれ、どちらも虚空に消えた。
だがネブラはすでに次の手を打っていた。
「ルイーナ、モラ!」
叫び声と同時に、私とモラは左右に散った。私は右へ、モラは左へ。ネブラは中央で足を止め、スパティアへ攻撃を加えた。
私は地面を蹴り、魔力を拳に集中させる。拳をスパティアの右側面に振り抜いた。
私の拳が届く寸前、モラの魔力シールドがスパティアの「空間の裂け目」を塞ぐように展開された。
攻撃が当たる――そう思った瞬間だった。
シールドが割れ、空間が裂けた。私の右腕が肘まで空間の裂け目へ吸い込まれた。反射的に腕を引き抜こうとした。その瞬間だった。開いていた裂け目が閉じた。
肘から先が消え、血が大量に噴き出した。赤い血が地面に飛び散り、腕を伝って滴り落ちた。
――痛い。
力が抜け、視界が揺れる。
「ルイーナ……!」
モラのその声を掻き消すように、スパティアは口を開いた。
「さよなら」
空間が一気に歪んだ。上空から巨大な赤い光の塊が落ちてくる。密度の濃い――まるで惑星の欠片ようなものだ。重力が局所的に歪み、地面が溶け、空気が焼ける。
逃げ場がない。
「お前ら逃げろ!」
ネブラが叫ぶ。だがその瞬間、光の塊が三人に直撃した。光が爆ぜ、すべてを白く塗り潰した。光が消えると、三人の体は跡形もなく消えていた。
スパティアは、ゆっくりと息を吐いた。
「……これで、魔の心を持つ魂を得た」
スパティアは空を見上げ、静かに呟いた。
「……次はハデスだ」
スパティアは指先で空間を裂き、そのまま立ち去った。
その場には、地面を深く抉った巨大な穴と、焼け焦げた大地だけが残っていた。




