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Frange ruinam   作者: S
魂編
28/38

神業

物語が半分を切りました。ここまで読んでくださりありがとうございました。最後まで頑張るので読んでくれると幸いです。次回から新章です。

「また、ネブラ報告に行っちゃったね」


モラは椅子に腰掛けながらそう言った。


「まあ、これで土地神、結構殺しちゃったからね」


私がそう答えると、モラは真剣な顔つきになった。


「あのさ、【72の神殺し】って本、覚えてる?」


「スパティアの棲家にあった本だよね?」


「うん。……私って、体の中に悪魔がいたでしょ? そのせいか、魂の数とかがなんとなく分かるんだよね」


「えっ、アニムスの魂も?」


「うん。でも自信なかったから言えなかったんだ。けど、ネブラに魂の数を聞いたら大体合ってたから……伝えたほうがいいかなって」


「それと、何か関係があるの?」


モラは少し間を置いた。


「間違ってなければ……今まで倒した土地神のアニムスの魂の数、全部合わせて72個なの」


モラがそう言った瞬間、コンコンと扉を叩く音が響いた。


「ネブラかな?」


モラはそう言うと、扉の鍵に手を伸ばした。


「待って」


胸の奥に嫌な予感が走る。私は咄嗟にモラを止めようとした。


だが――鍵はすでに開いていた。


扉の向こうに立っていたのは、スパティアだった。


「やあ、二人共」


「……スパティア」


その瞬間――壁を突き破り、ハルバードが一直線にスパティアへ突き出された。だがスパティアは体を軽く捻るだけでそれを躱す。


「ネブラ!?」


モラが動揺した声を上げた。


「お前……」


ネブラは壁の向こうから姿を現し、スパティアを鋭く睨みつけている。


「おっと、戦いは外でやろうか。ここだと建物が崩れてしまうからさ」


「気にしたことなど一度もないだろう。……まあ、いい」


ネブラは私達を追い払うように手を振った。


私とモラは顔を見合わせ、そのまま二人の後を追った。ネブラはこちらを振り返り、わずかに眉をひそめた。


外へ出た瞬間、風が止まった。


「かかってきなよ」


スパティアがそう言うと、ネブラが最初に動いた。


「キロプテラ」


低く吐き捨てるように呟くと、無数の黒いコウモリが空間を埋め尽くした。今まで見たこともないほどの数だ。


コウモリがスパティアの身体に触れる寸前、空間の裂け目が一瞬だけ開いた。コウモリはその裂け目に飲み込まれ、何事もなかったかのように空間は閉じた。


「……消えた」


モラが震える声で呟く。


「魔の心の入手方法を知っているかい?」


スパティアは笑いながらそう言った。


「研究の結果、魔には心というものが存在しないことが分かった。だが、二つの条件を満たせば、心に似たようなものが生まれる。その一つの条件は神業を成すこと。もう一つは――」


ネブラはハルバードを握り直し、スパティアに目掛けて突進した。刃が空気を切り裂き、スパティアの首を正確に狙う。風圧だけで周囲の地面が抉れるほどの威力だ。


刃はスパティアの首に触れる寸前で突然消えた。空間が裂け、ハルバードの先端が別の場所へ吸い込まれ、柄だけが残る。


「話を聞く気はなさそうだね」


「攻撃ができない……何か策あったりする?」


私はネブラに問いかけた。


「あれは魔力消費が激しい。それに、多方向から攻めれば、対応しきれないはずだ」


ネブラはそう言うと口を開いた。


「アルテル・エゴ」


その言葉と同時に、ネブラの姿が二つに分かれた。――分身。


ネブラの本体が正面から斬りかかる。刃がスパティアの胸元に届く寸前――空間が裂け、刃先が吸い込まれた。分身の攻撃も同時に別の裂け目へ飲み込まれ、どちらも虚空に消えた。


だがネブラはすでに次の手を打っていた。


「ルイーナ、モラ!」


叫び声と同時に、私とモラは左右に散った。私は右へ、モラは左へ。ネブラは中央で足を止め、スパティアへ攻撃を加えた。


私は地面を蹴り、魔力を拳に集中させる。拳をスパティアの右側面に振り抜いた。


私の拳が届く寸前、モラの魔力シールドがスパティアの「空間の裂け目」を塞ぐように展開された。


攻撃が当たる――そう思った瞬間だった。


シールドが割れ、空間が裂けた。私の右腕が肘まで空間の裂け目へ吸い込まれた。反射的に腕を引き抜こうとした。その瞬間だった。開いていた裂け目が閉じた。


肘から先が消え、血が大量に噴き出した。赤い血が地面に飛び散り、腕を伝って滴り落ちた。


――痛い。


力が抜け、視界が揺れる。


「ルイーナ……!」


モラのその声を掻き消すように、スパティアは口を開いた。


「さよなら」


空間が一気に歪んだ。上空から巨大な赤い光の塊が落ちてくる。密度の濃い――まるで惑星の欠片ようなものだ。重力が局所的に歪み、地面が溶け、空気が焼ける。


逃げ場がない。


「お前ら逃げろ!」


ネブラが叫ぶ。だがその瞬間、光の塊が三人に直撃した。光が爆ぜ、すべてを白く塗り潰した。光が消えると、三人の体は跡形もなく消えていた。


スパティアは、ゆっくりと息を吐いた。


「……これで、魔の心を持つ魂を得た」


スパティアは空を見上げ、静かに呟いた。


「……次はハデスだ」


スパティアは指先で空間を裂き、そのまま立ち去った。


その場には、地面を深く抉った巨大な穴と、焼け焦げた大地だけが残っていた。

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