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Frange ruinam   作者: S
魂編
23/40

ダイアリー

本に書かれている文字は、私達には判読できないものだった。見たこともない文字が、どのページにも隙間なくびっしりと並んでいる。


「……アモーレ?」


モラがぽつりと呟き、指で文字の一箇所をなぞった。よく見ると、どのページにも同じ単語が繰り返し書かれている。


――“アモーレ”。


「アモーレって何?」


モラは首を傾げる。


「名前っぽいけど……」


私は小さく呟いた。


意味は分からない。けれど、その単語だけが妙に浮き上がって見えた。


ページを次々とめくる。

そして――最後のページに辿り着いた。


「……これは」


そこだけ、真っ黒に塗りつぶされていた。何度も墨を塗り重ねたような、痕跡があった。


モラが眉をひそめる。


「……なにこれ」


モラの言葉を背に、私は本を元の場所に戻した。


私達は部屋の中を一通り調べたが、新たな手がかりは見つからなかった。静まり返った空間だけが、私達を見つめ返しているようだった。


「……とりあえず帰ろうか」


私達は棲家を後にし、重い空気を引きずるように宿屋へと戻った。



「……」


ルイーナ達が去ったばかりの部屋に、空間の裂け目が静かに走った。歪んだ空間の奥から、スパティアが姿を現した。


足音ひとつ立てずに着地すると、静まり返った棲家をゆっくりと見渡した。やがて本棚へ歩み寄り、迷いなく一冊の本を引き抜いた。


――表紙に何も記されていない、古びた本。


スパティアは無言でページをめくった。淡々と視線を走らせ、やがて微かに息を吐いた。


次の瞬間、本をためらいなく引き裂いた。紙が裂ける鋭い音が静寂の中に響いた。


「……もうすぐだ」


スパティアは指先で空間を裂き、そのまま立ち去った。



ネブラは椅子に腰を下ろし、低く言った。


「お前のことだ。どうせくだらない事をするのかと思ったが……」


「残念だけど、今日は違うよ」


女の悪魔は軽く笑う。だが次の瞬間、表情を引き締めた。


「――土地神の魂が、根こそぎ奪われてるの」


ネブラの視線が鋭くなった。


土地神。特定の土地や地域、国を守護する大地の神々の総称。


「規模は?」


「辺境の土地から順に、魂が抜けている。残ってるのは、神体だけ」


「報告は?」


「したよ。有力な神々にはね」


ネブラは舌打ちした。


「……まずいな。土地神が消えれば、人間界の均衡が崩れる」


「ここ最近、問題が多すぎるんだよね」


悪魔は苛立ち混じりに息を吐く。


「神々の連絡断絶、それに今回の件」


ネブラの目が細くなる。


「それで、お前の主君が我に事情聴取を命じたわけか」


「そういうこと」


悪魔は頷いた。


「で、ネブラが言っていた悪魔について詳しく」


ネブラは短く息を吐き、スパティアとアニムスについて語った。話が終わると、悪魔は小さく息を呑んだ。


「……なるほどね。神々と連絡が取れない理由はそれか」


次の瞬間、彼女は眉をひそめる。


「ちょっと待って。それ、神々に報告してないの?」


「していないが?」


悪魔は目を見開き、溜息をついた。


「こういう重大案件は、即時報告。間に合わなくなってからじゃ遅いんだよ」


「分かっている」


ネブラは腕を組みながらそう言った。


「とりあえず、見つけたらまた報告して」


悪魔はそう言うと、ネブラを外まで見送り、手を振った。

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