表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Frange ruinam   作者: S
魂編
21/39

無色の正体

観客席には、ムリエルが俯いたまま座っていた。


「あの、大丈夫ですか?」


思わずそう声をかけると、ムリエルがゆっくり顔を上げた。


「君は、3回戦目の……」


ムリエルはそれ以上言わなかった。

私は彼女の隣に腰を下ろした。


「話さなくてもいいと思っていたんです」


「えっ……?」


ムリエルがこちらを見る。


「気づいたことが少し重くて、打ち明けるのが怖かったんです。でも、口に出してみたら……なんだか、心が軽くなった気がしました」


ムリエルはこちらを見たまま、何も言わない。


「無理に話さなくていいですけど、一人で抱え込まないでくださいね」


そう言って立ち上がろうとした、その時。


「……話、聞いてくれない?」


小さな声だった。


「もちろん」


私はもう一度、静かに座り直した。


「昔、色々あって悪魔と契約したんだ。……それで、人間界に居場所を失って、魔界に逃げ込んだ」


――この人も契約者なのか。


「でも、魔界にも私の場所は無かったんだ。最初から居場所のある君達を羨ましく思うよ」


ムリエルは遠くの観客席を見つめる。


「私は人間でも魔でもない。何色にも染まれない。……私って何だろうね」


彼女は小さく笑った。


「私も、自分が何者か分からないです」


「えっ……?」


「でも、それでいいと思ってます。何者かである必要はありませんから。それに、私達は何色にもなれますよ」


しばらくの沈黙のあと、ムリエルはふっと笑った。


「確かに……少し心が軽くなった気がするよ」


そう言うと、彼女は黒い宝石のような石を取り出した。


「これ、古くから持ち主を守る『身代わり石』として言い伝えられている石なんだ。君にあげるよ」


「いいの?」


私が問いかけると、ムリエルは肩をすくめた。


「君、何か大変そうだからさ。ああ、それと……精神的な攻撃は防げないから気をつけてね」


差し出された石は、吸い込まれるような漆黒で、鏡のような光沢を持っていた。手のひらに乗せるとかなり重い。


ムリエルは椅子から立ち上がると、前に立つネブラとモラに気づいた。


「お前、呼ばれているぞ」


ネブラがムリエルにそう告げる。ムリエルは小さく息を吐き、こちらを振り返った。


「こんなに話したの初めてだな……ありがとう」


ムリエルは、闘技場の入り口へと歩き出した。私達も、その背中を追った。


闘技場の前には、女の悪魔が立っていた。


「二人とも揃ったね」


そう言って、悪魔が続けようとした瞬間――


「他の者に魔力を譲渡することはできるか?」


ネブラが割って入った。


「「えっ?」」


私とモラの声が重なった。

悪魔が目を見開いた。


「ネブラが勝ったでしょ?」


「それで……出来るのか?」


悪魔は一瞬顔をしかめた。


「公平性に欠けるから、本来はできないよ」


そう言ってから、何か思いついたように笑う。


「でも――ネブラが一日中、私に付き添ってくれるなら、特別に認めてあげる」


「何故、そんな事をしなければならない」


ネブラが低く言った。


「嫌なら、この話はなし」


悪魔は肩をすくめた。ネブラはしばらく考え、やがて小さく溜息をついた。


「……分かった」


「えっ!?」


モラがネブラの袖を掴む。


「何でそんな事するの?」


「お前の方が、魔力が少ないからだろ」


ネブラは淡々と答えた。私は思わず口を挟む。


「あの悪魔、色仕掛けで命を奪うって言ってたよね。危険じゃない?」


ネブラは鼻で笑った。


「我が、その程度で殺されると思うか?」


私達は顔を見合わせ、首を振った。

悪魔が楽しそうに問いかける。


「じゃあ、誰に譲渡する?」


ネブラは迷わず言った。


「こいつに」


ネブラはそう言って、モラを見た。


「え、でも……ルイーナの方がいいんじゃないかな。私は弱いし……」


モラは視線を落とした。


その時。


「それなら、私が譲渡すればいいんじゃないか」


ムリエルが一歩前に出た。その表情からは先ほどまでの迷いが消え、どこか吹っ切れたような明るさがあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ