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〜終点世界の歩き方〜  作者: 漣 カコイ
第一章 大人になれない国
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5:天井上



「秘密を知ってどうするんですか?あなたは大人なのに」


「___っ!」


突然現れた背後を刺す殺気の気配。反射的にタルトは【B:影渡り(シャドウステップ)】を発動し、瞬間的に後ろの戸棚の影に移動する。


目の前には頬のこけた老人。だが、ただの老人ではないのは一目瞭然。


「なんだこの魔力量……!!」


宮廷魔法使いに負けず劣らない魔力の厚み。加えて老人がタルトの背後をとったあの魔法。


「空間魔法・ワープだよ」


タルトの心を読んだように澄んだ声で老人は答えた。見た目は老人、しかしその声や瞳からは20半ばの若々しさを感じさせる。


「きみわりぃ」


タルトは老人に気づかれないようアークと自分の影を繋ぐ。老人がタルトの背後に現れてから約3秒経過。


タルトは湿ったひんやりとした空気を肌で感じて、自分がいつのまにか先ほどの部屋からどこかの広く薄暗い部屋へと移動させられていることに気づいた。地下だろうか。


「ヒッ……っ!」


隣で恐怖の表情を浮かべるアーク。どうやらタルトだけでなくあの場の空間ごとワープさせられたらしい。


タルトは【A:フェイタルステップ】を発動。


瞬間移動に近い高速移動でその場から姿を消すと短剣を鞘から抜き、老人の急所目掛けて突き刺す。


しかし。


「ちっ!」


タルトの短剣は空を切り、反撃の手刀がタルトの頬を掠めた。


間髪入れずタルトは【A:フェイタルステップ】×【B:デッドリーコンボ】×【C:急所見抜き】を発動。


高速移動で老人の意識をアークから離しながら周りを高速で跳ね回る。意識外に入った瞬間連打を叩き込みヒット&アウェイを繰り返す。


コンマ数秒もしないうちに老人の周りに血が散り始めた。


「こいつ……っ!わざと」


全身についた切り傷から滲み出る血を拭うことなくタルトは攻撃を続ける。


意識外に入り、接近。そして短剣で3連刺す。攻撃は空を切り、反撃の手刀がやってくる。体に突き刺さるスピードと軌道、しかし当たる直前で軌道を変え、致命傷にならない軽い切り傷を肌に残して逃す。


老人は遊んでいた。


「くそだらぁ!!!」


タルトは怒号を飛ばし獲物を狩るハンターのように殺気を突き刺してさらに激しく攻撃を仕掛ける。


老人は感情に乗せられるタルトを嘲笑しながら突進を続けるタルトの体を切りつけ続ける。


「哀れです。青年」


しかしタルトも微笑む。


「お前もな」


舐めてもらっているうちが吉。


上にも同じような部屋があるか空間があるかは反響で確認済み。タルトが天井に蹴りを入れると、あらかじめ細かい斬撃を入れられていた天井は老人の脳天目掛けて落下を始める。


「ワープ」


うすら笑みを浮かべた老人がその場から姿を消す。


タルトは跳ね回る軌道を変え、アークの元へ。


「【B:影鎮】」


途端、タルトとアークが影の中に沈み始める。この薄暗く空間全体が影のような場所では盗賊が逃げおおせるなど容易い。


影の中に完全に鎮めることができればの話ではあるが。


「かはっ……!?」


タルトの首に圧がかかった。まず息が止まる。


いや、正確には止まるのではなく、通らなくなる。肺は空気を欲しがっているのに、喉の奥で何かが蓋をしているようで、吸っているはずの息が体に届かない。


胸がざわつき、心臓だけがやけに大きな音を立て始める。


老人の手中にタルトの首はあった。


「君が盗賊スキル持ちなら必ず影に逃げ込むだろうと思っていました。あらかじめワープを地面とつなげておいて正解でした。出会い頭に盗賊の専用スキルを見せてくれましたね。職業が丸わかりですよ」


視界の端が滲み、世界が少しずつ狭くなる。周囲の音は遠く、耳鳴りのような高い音だけが残る。光はまだ見えているのに、現実感が薄れていき、タルトはまるで水の中に沈んでいくような感覚に襲われる。


そして、なんという怪力。


先ほどまでの痩せ細い老人はそこにはなく、目の前にははち切れんばかりの筋肉を宿した化け物のような老人。


どれだけ力を入れてもタルトは老人の手を引き剥がせない。

先ほどの手刀と言いこの老人、魔法使いではないのか。


「さっきからジタバタと、虫のようで鬱陶しい」


振り下ろされる拳がタルトの鼻に直撃する。ゴッと鈍い音をたて、鼻から血が吹き出る。その痛みを感じるまもなく8回、10回、20回と狂拳がタルトを破壊する。


アークは目の前で真っ赤に染まるタルトと狂気の男に腰が抜けその場から動けずにいた。


「タ、………タルト、さ……」


消え去りそうなアークの声はタルトの耳にはもう届かない。タルトの体は抗う力を失い、ピクピクと痙攣するだけにとどまっていた。


「あれ?もうおしまいですか?まだ始まったばかりです……よっ!」


タルトの体は宙を浮き、老人の手によって地面に叩きつけられる。


破壊音と共に地面が割れ、更に下層の部屋へと落ちる。タルトの体からは致死量の血が流れていた。


「ひっ、ぅぅあ!」


アークは落下と共に落ちた瓦礫に足を潰され思わず声を上げる。


地面を這う形で上を見上げると、目の前にはタルトをなぶっていた巨軀の老人、ではなく最初に見た頬のこけた老人。


その目は驚くほど青く澄んで、気味が悪かった。


「さぁ少年。あなたも私たちの一部となり共に生きましょう」


血だらけの手がアークに伸びる。


視界がどんどん赤黒いものに覆われていく。


___誰か、助けて。


絶望がアークを飲みこむ。


その時、視界の端、吹き抜けた天井上から月光に照らされた2人の人物が目に入った。


1人は全身に痛々しい傷を残す男。1人はシルクのような灰色髪を靡かせる少女。


アークの視線に釣られて老人も天井上に目をやる。


「誰ですかなぁ?」


男は隣の少女に目をやると口を開き開戦を告げた。


「はじめるぞ」













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