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ナルシスト公爵と引きこもり令嬢の不本意なロマンス  作者: はるさんた


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7/20

第七話:結婚初夜のナルシスト問答

王都から遠く離れた、北方の旧城塞。ヴェルサイユ公爵夫妻の新居となる場所だ。豪勢な結婚式の後、カエサルとアメリアは、その夜のうちに改装されたばかりのこの城塞へと到着した。


カエサルが、城塞の最上階にある豪華な寝室にアメリアを残し、隣接する自室へと移動した直後、ユリウス・ローラン男爵がノックもせずに彼の部屋に入ってきた。


「カエサル様、ご結婚おめでとうございます。そして、お疲れ様でございました。結婚式の後始末と、明日以降の公務に関する書類を少々……」


ユリウスは、夜中にもかかわらず、全く疲れを見せないカエサルと対照的に、心身ともに消耗しきった様子だった。彼の深い緑色の瞳は、隈のせいでさらに暗く沈んでいる。


カエサルは、着ていた豪華な衣装を脱ぎ捨て、鏡の前に立っていた。


「ユリウス。なぜ、この私の愛の成就という神聖な夜に、貴様は俗世の汚れた書類を持って現れる? 私の美しさの邪魔だ」カエサルは、鏡に映る完璧な自分の姿にうっとりしながら言った。


「俗世の汚れた書類こそが、貴方様の愛の成就という名の莫大な浪費を支えているのでございます」ユリウスは静かに言い返した。彼は慣れている。


カエサルは振り返り、鋭い視線をユリウスに向けた。「貴様は、アメリアが選んだあの寒々しい城塞の改装費用が、いかに王都の貴族たちを黙らせる寵愛の証となったか、まだ理解できないのか?」


「理解しております。改装費の総額は、我が公爵家の年間収益の五分の一を上回りました。誰もが『公爵は狂った寵愛をしている』と噂しております。しかし、それがかえって『裏に大きな取引がある』という憶測を呼んでいるのです」


ユリウスは深くため息をついた。


「そして、肝心の結婚生活ですが……。アメリア様はすでに寝室から中央書庫へと移動された模様です。ご自身で設計された引きこもり要塞が待ち遠しかったのでしょう」


カエサルの口角が、さらに引き上がった。


「フフフ。やはりな。彼女は私に最高の挑戦を仕掛けてきた。結婚初夜に私を無視し、書庫に籠もるなど……私という美の極致を前にして、知的な探求を優先するとは。なんという、孤高の精神だ!」


ユリウスは、カエサルの歪んだ解釈に、もはや反論する気力もなかった。


「カエサル様。孤高の精神ではなく、極度の引きこもり願望でございます。彼女は貴方様の資金で、誰にも邪魔されない一生涯の夢を実現しようとしているだけです」


カエサルは、不機嫌そうなユリウスの言葉を、全く意に介さなかった。


「貴様には理解できまい、ユリウス。彼女は、平凡な愛を拒否しているのだ。彼女にとって、私との生活はスリルに満ちたゲームでなければならない。私が、私がデザインした昇降機を使って、彼女の聖域を破る瞬間……それが、彼女にとっての最高の愛の表現となる」


カエサルはそう言い、満足げに笑った。その顔は、自分の計画の完璧さに酔いしれている。


「明日から、私は、公爵妃に熱烈に愛されている完璧な夫を演じながら、同時に彼女の逃亡要塞を攻略する挑戦者となる。この二つの役割を同時に演じる私こそ、最高の役者だ!」


ユリウスは、目の前の主人を見て、乾いた声で呟いた。


「明日から、私は愛の逃避行を支える秘書を演じながら、同時に公爵家を破産から守る会計士の役割を負うことになります。そして、増築された書庫の防湿対策と昇降機の点検の責任も私にあります。カエサル様、ご自身の美しさに溺れるのは結構ですが、どうか公務も……」


カエサルは、鏡に向かって髪を撫でつけながら、ユリウスに背を向けた。「わかっている。だが、君の顔を見ていると、私の完璧な愛の構想に、不純な現実というシミがついてしまう。もう行け、ユリウス。そして、明日の朝食は、アメリアが好む静寂にふさわしいものを用意しろ」


ユリウスは深々とため息をつき、静かに部屋を出て行った。


「……勝手にしてください。そして、どうか、書庫の昇降機で事故を起こしませんように」


扉が閉まり、カエサルは再び鏡の中の自分に向き直った。彼は自分の完璧な人生の次の章に興奮していた。


「アメリア。最高の逃亡生活を送るがいい。私がそれを破るまで、君の退屈は消え失せないのだからな」


こうして、ナルシスト公爵の結婚初夜は、愛する妻を無視して鏡と書類と対話し、「愛のゲーム」という名の究極の干渉計画を練ることで過ぎていったのだった。


作者もこれだけの自信を持ちたい

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