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ナルシスト公爵と引きこもり令嬢の不本意なロマンス  作者: はるさんた


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第二話:契約成立、究極の引きこもり計画

「いいえ、公爵様。私はただ…退屈で、そろそろ帰りたいと思っていただけです」


アメリアの言葉は、ヴェルサイユ公爵カエサルの耳には「あなたという完璧な存在がいない世界すべてに、私は興味がない」という最高の賛辞として届いた。彼のナルシストのプライドは満たされ、長年の退屈から解放されるという高揚感に包まれた。


「素晴らしい! 君も私と同じく、この世界に飽いているのだな」カエサルは自らの解釈に酔いしれ、優雅に口角を引き上げた。


「ならば、問題は一つだ。私という刺激を、君の退屈な日常に永続的に持ち込むこと。それが、この社交界で君が見つけた唯一の解決策だ」


カエサルは周囲のざわめきなど意に介さず、アメリアの正面で、自信満々に断言した。


「結婚しろ、アメリア・フォン・グリム。君をヴェルサイユ公爵妃として、私の隣に置く」


周囲から、驚愕の囁きが漏れた。


アメリアは、瓶底眼鏡の奥で、顔色一つ変えずに公爵の言葉を聞いていた。彼女の心は、今、人生最大の計算を高速で実行していた。彼女の野望である「お金の心配なく、誰にも邪魔されない究極の引きこもり生活」には、侯爵家の財力では到底足りない。


(待て。ヴェルサイユ公爵家は、国内一の資産家。その権力と富を利用できれば……)


アメリアのヘーゼル色の瞳の奥に、強い野望の光が灯った。


「公爵様」アメリアは静かに口を開いた。「申し訳ございませんが、私には公爵妃としての資質はございません。社交界に興味がなく、引きこもりを愛する私では、公爵家にお恥をかかせるだけです」


「笑わせるな!」カエサルは、これを興味を引くための高度な駆け引きだと解釈した。「君のような真に孤高の魂を持つ者が、他の凡庸な者たちと同じように振る舞う必要はない。君は私のコレクションの最高傑作だ。誰もが手にできない君を手に入れることこそが、私の歓びだ!」


カエサルの熱弁を聞きながら、アメリアは具体的な契約条件を固めた。


(「コレクションの最高傑作」ね。結構。どうせ興味を失えば、私は隅に追いやられる。その「隅」を、私が望む究極の引きこもり場所に変えてしまえばいい)


アメリアは、一呼吸置き、冷静な声で切り出した。


「公爵様。私の唯一の願いは、静かで干渉のない生活を送ることです。もし、この私が公爵妃になることで、公爵様の退屈が殺されるというのならば……私も、条件を提示させていただきます」


「言ってみろ。君の望むものは全て叶えよう」カエサルは興味津々だ。


「ありがとうございます。私の条件は三点です」アメリアは淡々と述べた。


私は公爵妃としての義務を果たしますが、それ以外の私的な時間、特に書斎での時間を公爵様、公爵家の皆様、そしてその他の誰からも一切、干渉・邪魔されないこと。


結婚後、公爵家所有の敷地が広く、人目につかない離宮(書庫の増築に耐えうる頑丈な建物)を提供していただくこと。


私が趣味とする稀覯本の収集、古文書の修復に関する費用を、公爵家の資産から無制限に提供していただくこと。


アメリアの提示した条件は、愛のない契約結婚のそれとしてはあまりにも具体的で、引きこもり生活の実現に全てを賭けた内容だった。


カエサルは、その条件を聞き、さらに興奮した。


(書斎? 稀覯本? 彼女は私の美貌よりも、知的な探求を優先している。それこそ、私の退屈を殺すにふさわしい、高度な遊びではないか! 彼女は私に挑戦しているのだ。私と結婚しても、彼女の自由な精神は奪えない、と!)


「よかろう!」カエサルは力強く頷いた。「全て約束しよう。特に、資金については心配するな。君の趣味にかかる費用など、我が家にとっては塵芥に等しい。私の美の隣にある君には、最高級の環境を与えるべきだ」


「ありがとうございます。公爵様のお言葉、承知いたしました」アメリアは深々と優雅な礼をした。


契約、成立。


アメリアは、公爵の了承を得た瞬間、心の中で静かに、そして激しく歓喜した。


(ヴェルサイユ公爵妃という身分と、その莫大な資金! これ以上の究極の引きこもり環境はないわ!)


彼女は確信していた。公爵妃という立場は、逆に「体調不良」や「公務多忙」を理由に社交界から身を引く最高の防壁となる。そして、カエサルはいずれこの「飽きない遊び」にも飽きる。その時、彼女は無制限の資金と、誰にも邪魔されない離宮を手に入れているだろう。


カエサルはアメリアの手を取り、勝利宣言のように高らかに言った。


「君は、私の退屈を殺す最高の遊びだ。さあ、アメリア。この退屈な世界を、私と君で刺激的なものに変えていこう」


彼はアメリアの手の甲に口付けを落とす。アメリアは、その唇の感触よりも、カエサルの言葉に**「当分は私の引きこもり計画のために資金を提供し続けてくれる」**という意味を読み取り、静かに頷き返した。


二人の間には、愛も、情熱も、共通の目的もなかった。あるのは、ナルシストのプライドと、引きこもり志望の野望という、互いの欲望を満たすための、冷徹な契約だけだった。


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