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ナルシスト公爵と引きこもり令嬢の不本意なロマンス  作者: はるさんた


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第十三話:秘書の嘆きと公爵家の政治

カエサル公爵とアメリア妃が図書館へ向かった後、ヴェルサイユ公爵邸の廊下には、泣き崩れるロザリンド嬢と、深く疲弊したユリウス・ローラン男爵だけが残された。


「ユリウス様! お願いです! 一年間の社交界追放なんて、私の一族は終わりですわ! カエサル様に、もう一度だけ、もう一度だけ陳情させてください!」ロザリンド嬢は、地面にひれ伏し、ユリウスの足元にしがみついた。


ユリウスは、ロザリンド嬢の肩にそっと手を置いた。その手は、冷たく、感情が一切こもっていなかった。


「ロザリンド嬢。貴女は、ご自身の立場を理解していません。貴女が侮辱したのは、単なる侯爵家の娘ではありません。公爵家が莫大な費用と公爵の寵愛という形で、公に価値を認めた存在です」


ユリウスは静かに続けた。「公爵は、貴女の言葉の真偽など気にしておりません。彼が怒ったのは、貴女が『私の選んだものは凡庸だ』と、公爵の美学と判断力を否定したからです。そして、公爵の美学を否定することは、ヴェルサイユ公爵家全体の権威を否定することに繋がります」


ロザリンド嬢は、顔を上げ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、尋ねた。「で、でも、公爵様が私を選ばなかったのは、なぜなの……? 私の方が、社交性に優れて、美しく――」


「貴女は美しい」ユリウスは淡々と事実を認めた。「そして、その美しさが、カエサル様にとっては退屈なのです。貴女の賛美は予測可能で、貴女の欲望は平凡だ。公爵様がアメリア様を選んだのは、彼女が公爵を飽きさせないからです。彼女の究極の引きこもり願望は、公爵の究極の干渉欲を刺激する、最高の挑戦状なのです」


ユリウスは、ため息をつくと、ロザリンド嬢をそっと立たせた。


「一年間の社交界差し止めは、決定事項です。もし、この件で貴族院に泣きつけば、公爵はそれを**『宣戦布告』と見なし、貴女の一族は破滅します。貴女は、ただ静かに謹慎し、公爵家の異常な愛の形式**について、熟考なさい」


ユリウスはそう言い放ち、ロザリンド嬢を公爵邸から退出させるよう、すぐに使用人に指示を出した。


廊下には、再び静寂が戻った。ユリウスは、その場に崩れ落ちそうになりながら、ポケットから皺くちゃになったメモを取り出した。


「ああ、また仕事が増えた……」


メモには、アメリア妃の書庫の防湿剤の特注手配と、ロザリンド嬢の一族が関与する公爵家の投資案件の凍結処理が、大文字で書き加えられていた。


ユリウスは、カエサルとアメリアの二人の主人を持つことの、計り知れない疲労を感じていた。


(カエサル様のナルシシズムと、アメリア様の引きこもり願望。どちらも現実逃避という点で、恐ろしく強固で純粋だ。そして、私はその純粋な狂気の間に挟まれ、俗世の現実という泥まみれの仕事を処理し続けている……)


ユリウスは、カエサルがアメリアに口付けを落とした時の、アメリアの微かな動揺を思い出していた。


(アメリア様は、公爵の「孤独」に触れ、人間的な反応を示し始めた。それは良いことです。人として。しかし、それはゲームのバランスを崩す。アメリア様が公爵に心から傾けば、公爵は彼女に飽きるかもしれない。アメリア様が完全に逃亡すれば、公爵は暴走する)


ユリウスは、頭の中で、ヴェルサイユ公爵家、公爵、妃、そして自身の平静という、四つの要素の不安定な均衡を図ろうとしていた。


彼は立ち上がり、ふと、カエサルとアメリアが向かった図書館の方角を見た。


「どうか、アメリア様。貴方の知的な探求心が、公爵のナルシスト的な干渉に完全に屈しませんように。そして、公爵様。どうか、昇降機の騒音を、これ以上大きくしないでください。私の胃が持ちません」


ユリウスは、深く、深く、諦めと共感の入り混じったため息をつき、山積みの書類が待つ執務室へと、重い足取りで向かっていった。彼の孤独な闘いは、カエサルの愛のゲームが続く限り、終わることはないのだ。



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