第2章、第2話
「お…お姉さん…ちょっといいですか?」
目の前で綾崎詩音ひとりが主導する「初対面の感動」という名の嵐に対し、理人はついに震える手で手を挙げた。それはまるで、授業中に勇気を出して先生に質問する生徒のようだった。
「はいっ!どうぞ!私の親友にして名付け子である咲希ちゃんのお父様!」
詩音は「シャッ」と勢いよく理人の方に振り向き、目がキラキラと輝いている。そこには純度100%の興奮と期待が閃いており、その強烈なオーラに理人は心臓が飛び跳ねそうになり、言いかけた言葉を忘れそうになった。
「あ、あんた、まず落ち着いてくれ」
彼は唾を飲み込み、詩音が手に持っている綺麗なワンピースを指さした。
「聞きたかったのは、どうやって咲希のサイズを知ったんだ?こんなにぴったりなの?」
「アハ!」
詩音は得意げに笑い、人差し指を理人の目の前で優雅に左右に振った。
「No, No, No, my darling ~」彼女は語尾を伸ばし、まるで人生の哲学を伝授するような口調で言った。
「これはあくまで『参考』よ!『可愛い』という概念の基準点を確立するためのもの!もしサイズが合えば、これを標準にして、もっと、もっと、スーパーいっぱい買い足す予定なの!」
(参考?服を買うのに参考って使うのか?こいつの買い物ロジックはどうなってるんだ?しかもさらに買うつもりだと?俺たちの生活費が…)
理人の口は「O」の形に開いたままになり、幼なじみの消費観念を全く処理できず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
咲希は傍らに立ち、そのワンピースを見て、次に感情が高まっている詩音を見て、小さな顔には戸惑いと困惑が浮かんでいた。
彼女には「参考用の服」という概念が理解できないようだった。
雪乃はため息をつき、黙って歩み出て、事後処理を始めた。
彼女は、詩音の熱意で溶けてしまいそうなケーキをまず冷蔵庫に入れ、次に服やぬいぐるみなどのプレゼントをとりあえず客間にしまい、みんながお茶を飲めるスペースを確保した。
「詩音」
雪乃は片付けをしながら、淡々とした口調で言った。
「その調子だと、咲希ちゃんの部屋は、まずあんたのプレゼントで埋まってしまうわよ。クローゼットじゃなくて」
「それならちょうどいいわ!」
詩音は任脈督脈が開通したかのように、興奮して手を叩いた。「善は急げ!今すぐ咲希ちゃんのサイズを測って、世界一可愛い大きなクローゼットを買いに行きましょう!」
そう言って、彼女は本当に自分の小さなバッグから、クマの絵柄がついた可愛らしい巻き尺を取り出した。
この予期せぬ展開に、咲希は思わず半歩後ずさり、ちょうど台所から出てきた雪乃の影にそっと隠れた。小さな頭だけを半分覗かせ、「武器」を携えてじりじりと近づいてくる詩音を警戒した目で見つめている。
「はい、そこまで」
雪乃は審判のように片手を詩音の前に突き出し、この茶番劇を終わらせた。
「まずはお茶を飲んで、ケーキを食べて。せっかく長時間並んで買ったんでしょう?」彼女は視線で、テーブルに用意されたばかりの紅茶とカットフルーツを促した。
「うう…」
詩音の攻撃は、一瞬で美食によって瓦解した。彼女は可愛い咲希をちらりと見て、次に香りの良い紅茶とケーキを見て、二秒間葛藤した後、ようやく巻き尺を収めた。
「わかったわ!じゃあ、まずティータイムを楽しむとしましょう!」
理人は長〜く、長〜くため息をついた。まるでマラソンを完走したかのような気分だ。
妹が二言三言で事態を収拾したのを見て、また、妹の背後に隠れ、明らかに妹の方を信頼している咲希を見て、彼の心には複雑な感情が湧き上がった。
いつの間にか、この家では妹の雪乃の方が、兄である自分(そして咲希の名目上の父親)よりも、ずっと頼りになる存在になってしまったようだ。